ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

麻酔科の将来を見据えて、並列麻酔をどう考えるかの僕の意見

こんにちは、コッカーマリン(@losgenedoctor)です。

 

少し前ツイッターのタイムラインで少し並列麻酔について盛り上がっていたので、ここで僕の私見を述べてみたいと思います。

ツイッターだと目について、変に誤解を生んでも嫌なので。

 

そもそも「並列麻酔」とは、一人で同時に2つ以上の麻酔をかけもちすることを普通は指します。

似たようなやつで「鵜飼い麻酔」とか言われるものもありますが、それぞれの麻酔症例に一応医者(研修医とか)を患者の全身状態の監視役につけておいて、複数のそういう部屋を麻酔科医が一人で総監督する、という麻酔のやり方です。

並列麻酔も鵜飼麻酔も、麻酔専門の医者が目を離している時間帯があるという意味では同じです。

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一方僕がいまやっているような麻酔なのですが、一つの麻酔の症例に麻酔科医が一人でずっとつきっきりでみておく、という麻酔もあります。

研修医とかが一人下について、1対1でその後ろで監督する場合もありますが。

いずれにせよ、一人前の麻酔科医が、患者のバイタルから一瞬たりとも目を離さない、そういう麻酔管理ですね。

 

というかこれが本来の麻酔であって、タテマエ上、麻酔科の世界ではこういう麻酔管理体制がいつも提供できるようにするのが理想である、となっていると思われます。

日本で行われる麻酔のすべてでこれをできれば言うことはありません。

 

しかし実際には地域によって、病院によって、時間帯によって、いろいろあるわけです。

基本的にはそんなにマンパワーがないので、それぞれの現場で「これぐらいならまぁ安全にできるかな?」という判断でやられているのが実際のところでしょう。

もちろん麻酔症例の性質(心臓外科の手術麻酔だと並列麻酔は難しいなど)によっても違います。

 

並列麻酔というものをどうみるか、というのは視点によって全然変わってきます。

外科医からみたら、「何かあった時はちょっと心配だけど、まぁちゃんとやってくれてるんならいいかな?」程度かもしれませんし、ずっとオッサン麻酔科医が難しい顔して麻酔器の前で座っているより、何もわかっていない研修医が一応バイタルの監視だけはやってくれているほうがやりやすい面もあるのかもしれません。

 

外回り看護師からしたら勝手をわかっている信頼できる麻酔科医がずっと部屋にいてくれたらすごくありがたいでしょう。

 

麻酔科医でも、並列麻酔を許容している人と、許容していない人がいます。

許容している人は、やらざるを得ない状況でやっているうちに、ある程度慣れてきて「見ていない時間帯があるからリスクは多少上がっているだろうが、いろいろな準備をしておけば許容範囲内である」と思っている人が多いと思います。

許容していない人は、「麻酔の事故は重大なので、少しでもリスクの上がる管理方法を選択すのは間違っている」という主張だと思います。

あと、麻酔を普段から並列でやっていると、並列でも麻酔ってできるんだ、という誤ったイメージを周囲に与えるとも考えていると思っている人も多いのではないでしょうか。

 

実は上の許容している人も許容していない人も、麻酔で飯を食っている麻酔科医である限り、おそらく両方の考え方が100%理解できると思うんですよね。

それがそれぞれのおかれた環境でどっち派かに分かれてしまっているだけで、もともと自分がどう考えるかなんて選択肢なかったんじゃないかと思います。

 

例えば大学から派遣されたバイト先で、一日3件麻酔をせざるをえないとします。

8時間のラパロ胃切、4時間の脊椎2件とか。

ワタシ、並列絶対やりませんということで、一列でやるとなると、朝9時から始まって毎回帰るのが夜中1時ということになる。

その病院の看護師も外科医も困るし、文句言われるに決まっています。

そしてそれまで十年以上先輩麻酔科医たちが、そのバイト先では並列をしていた、それで概ね問題なかった、ということだったりするとこれはもう普通は並列で仕事を受けるしかない。

並列でやったら、17:00には終わって帰れます。

もちろん、自分は絶対並列やりません、他のバイト先にして下さいということもできますが、ただ他の人がそこに派遣されるだけです。

 

視点ということから考えると、経営者の視点というのも無視できません。

というかこれが実は一番重要です。忘れがちですが、勤務医のほとんどは替えの効く単なる労働者なので、経営者がどう思うだろうかというのを考えるのは当然でしょう。

経営なり運営している立場からすると手術を◯◯件やりたい、それには麻酔科医が◯◯人いる、それだけ集めるにはどうすればいいか、ということを考えます。

 

ちなみに、経営者視点でみるとどこまでいっても麻酔科はコストに過ぎない、ということは忘れてはいけません。 

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◯◯の数の麻酔を◯◯人のこんなメンツの麻酔科医達でまわせ、という状況が与えられ、麻酔部門の責任者の指示の下ソルジャー麻酔科医達が頑張るわけですが、◯◯の人数じゃ無理だオペ減らして欲しい、という声が起きています。

経営側からするとオペを◯◯例だけやらないといけないのでハイそうですかというわけにはいかず、経営者、外科、麻酔科責任者の間のコンフリクトは絶えません。

 

許容しない側の、麻酔科医自身が並列OKとしたら麻酔科の価値を毀損する、という意見はもっともです。

麻酔にどれだけの監視の目が必要なのか、というのを決めるのは麻酔をやっている麻酔科医自身に他なりません。

 

しかし麻酔も含め、手術医療がどんどん変化していっているなかで、一人一麻酔という「理想」をいつまでも掲げ続けていていいのだろうか、ということは正直思います。

開腹大量出血みたいな手術はどんどん減少し、低侵襲の手術が増え、麻酔に使う薬もデバイスもどんどん進化して普段の麻酔で怖い思いをすることは明らかに減ったように思えます。

 

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手術医療の現場では麻酔科医が足りない、でも手術はたくさんある、という状況が今でも起きることが多く、そのスキマを埋めるために麻酔科のアルバイト代がすごく高騰することがあります。

 

それが他の科からみた、「麻酔科医は儲かる」というイメージを作っているように思われます。

実際は「そういうこともある」というだけで、多くの麻酔科医は普通の給料で働いているのですが。

 

しかしバグみたいな突出したサラリーで働く麻酔科医の話が悪目立ちすると、やはり時間をかけてそれを修正しようとする動きが現れます。

一番わかり易いのはこのブログでもよく言っている、麻酔看護師ですね。

 麻酔看護師数名を鵜飼いして、一人の麻酔科医が監督する、という方向に基本世の中は動いていきそうです。

 

 確かによく見る、麻酔に何の興味もない研修医を麻酔につけて、導入抜管以外はその「指導医」は麻酔科の部屋でダベっている、という構図を考えると、麻酔看護師でいいような気もしてきます。

 

しかし以前からの言っているのですが、個人的にはこれには反対です。

コメディカルの職域を増やす、ということには反対ではないのですが、麻酔科医にとって麻酔業務は仕事の本丸であって、他の資格の人間を入れるべきではないと思うからです。

色々と制限を設けているようですが、これは断言しますが実際に始まったら有名無実化されるに決まっています。

 

麻酔科医以外からみたら多くの場合麻酔看護師がやる麻酔と麻酔科専門医がやる麻酔の違いなんてほとんど分からない以上、麻酔看護師の導入は単純に麻酔科医の仕事を減らすことになります。

 

麻酔科の専門医がつきっきりで頑張って、

「良い麻酔」

 「術後痛くない」

などというものを提供できても、実は全く市場では評価されません。

市場的に良い麻酔科医というのは殆どの場合、沢山の麻酔を文句言わず安くかけてくれる、それだけなんですよね。

 

あと、麻酔看護師を導入してもタテマエ上は当直(orオンコール)麻酔科医は最低限必要なので、そこまで麻酔科医の数が減らせるわけではない。

個人的には並列麻酔をもっと許容して、バイタルを常に監視する人がいない状況はテクノロジーの力で解決すべき問題だと思っています。

とにかく麻酔看護師という中途半端な存在は、日本の看護師のレベルなどからいってもあまり良くないと思っています。

 

今、麻酔看護師になろうとしている人には不快な内容かもしれません。

こんな黎明期に麻酔看護師を目指そう、という人はきっと優秀な人達でしょうしうまくいけば麻酔科医×麻酔看護師の素晴らしいチームができあがるかもしれません。

 

しかし、優秀な医者と駄目な医者の差が明らかなように、優秀な看護師さんと駄目な看護師さんの差もすごいものがあります。

麻酔を専門にしてきた人間としては、将来麻酔看護師の裾野が広がり、恐ろしくデキの悪い麻酔看護師と一緒に働くのが恐ろしくてしょうがありません。

それなら、自分で3列くらい並列でみた方がよっぽどいいな、と思うわけですね。

 

と僕がいくら言っても、やはり時代の流れとしては麻酔業務のコモディティ化というのはゆっくりとすすんでいくでしょう。

当直バリバリやります、心臓外科麻酔移植麻酔なんでもござれ、ICUもみますよ、みたいな人にはあまり関係ない話で、僕みたいなドロッポ麻酔科医やゆるふわママ女医には逆風ですね。

どのくらいの期間をかけて進んでいくのか、全く読めませんが、意外と動き出すと早いかもしれませんね。

 

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