ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

今、研修医が絶対に麻酔科を選ぶべきではない3つの理由

こんにちは、ロスジェネ勤務医(@losgenedoctor)です。

 

私はもう医者になって20年ほどたちます。

僕が研修医になった当時はスーパーローテーションもなくいきなり麻酔科を選びましたので、麻酔科しかほぼやったことないです。

当時麻酔科は医者を助ける医者、医者のなかでも専門性の高いスペシャリストと思っていました。まぁそういうのもあって麻酔科を選んだのですが、もしいま自分が研修医だったとしたら絶対に麻酔科を選ぶべきではないと断言できます。

この20年でいろいろ変わりました。医療が変わり、麻酔も変わってしまいました。社会も変わりました。

麻酔診療をとりまくいろいろな事が、根本的といっていいくらい変わってしまったのです。

 

もちろん今は麻酔科って給料がよくて待遇がいい、とか他の診療科からは思われているのかもしれません。

しかしそれはもうあと少しの話です。むしろこれからはその揺り戻しの時代がきます。

 

僕の思う「研修医が麻酔科を選ぶべきではない3つの理由」とは、

 

①麻酔科の診療はもはや看護師がやれるレベルだと思われている

②働き方の柔軟性のなさ

③麻酔がつまらなくなった

 

です。解説します。

 

麻酔科の診療は看護師がやれるレベルだと思われている

 

周麻酔期看護師という制度がすでに始まっています。

www.cokermarin.com

 

麻酔科医が足らない分、周麻酔期看護師(麻酔看護師)なるものを創設して麻酔をやらせよう、という動きですね。

 

記事の中でも述べましたが、まだ麻酔看護師が普及して麻酔科医の仕事が目に見えて減っていくという事態は大分先だと思います。そんな未来がそもそも来ない可能性もある。

しかし重要なのは、

「今現在麻酔科医が自分でやっている(ことになっている?)ことが、トレーニングを積んだナースなら十分できる」

というコンセンサスが、医療の世界で得られてしまったということです。

一部の麻酔科医も自らすすんでそう主張しているわけですが。

例えば耳鼻科医のやる扁桃腺摘出、腹部外科のやる鼠径ヘルニアの手術、眼科医のやる白内障手術など、「難易度が低いので専門の医者が監督していれば看護師がやっても問題ない」という話になるでしょうか。

きっと実際は麻酔も、いま挙げたオペも、別に看護師でもできるでしょう。というかそのへんのお兄ちゃんでも3ヶ月くらいちゃんと教えこめば9割くらい問題なくできると思います、ポイントになるところでちゃんとした医者がチェックすればほぼ100%問題なくいける。

否、オペじゃなくても、小さい手術の術後管理くらいなら本当は掃除のおばちゃんでもしっかりと教え込めばできますよ。

しかし、看護師に白内障の手術をさせるという話にはなりません。医療側からも患者からもそういうコンセンサスが得られないからです。

 

医療は実は相当に「資格商売」の面があります。

実際にできるかどうかではなく、資格や職の格の上で「やっていいかどうか」が決まっているわけです。

 

医者になるような人しか解けないような難しい積分の計算レベルのことが、医療の現場で必要になることはほとんどないんですよ。

なのに麻酔に関してはOKとなってしまったわけです。

日本の周麻酔期看護師は、麻酔科医の監督の下でやるというタテマエになっていますが、何十年か後実際に導入されたらそのあたりはあやふやになってくるでしょう。麻酔ばっかり5年間やっている看護師がいたとして、それが麻酔専門医と目に見えてレベルが違うように周りの目(主に外科医)から判断できるとは思えません。

実際に麻酔看護師はアメリカではほぼ麻酔科医なしで麻酔をやっているわけです。麻酔で問題を起こす頻度は大してかわらないという調査もあります。

 

看護師の資格+何年か大学院に行ったレベルの人達と同じ土俵で戦いたいでしょうか?

今の研修医のみなさんは、僕たちのころより医学部にはいるのは難しくなっているし、看護師になる人達より何倍も優秀でたくさん勉強してきたでしょう。

医者になるためにお金と労力もかかっている。

なのにやる仕事は看護師とほぼ同じ、給料は高いから煙たがれる。

麻酔科という科の専門性というのがもう認められていない以上、それだけ優秀な人間が一生を賭ける専門科として選ぶのは賢い選択肢ではありません。

 

あと、麻酔看護師を3人位監督して麻酔をやっていて、なにか問題が起きたら責任は取らされる可能性はあります。自分で一例麻酔をやっていたときとくらべると約3倍のリスクになるということかもしれません。

 

働き方の柔軟性のなさ

 

人間は逃げ場、というかいつもの戦場(職場)と別の場所がないと精神の安定が得られないものです。

もう辞めたいと思った時に、前の職場の部長が「いつでも帰ってきたらいいよ」と言ってくれたらもうちょっとここで頑張ってみようか、と思ったりするものです。

 

診療科によっては、技術や経験が身についてくると「開業」という選択肢を心のどこかに抱くケースが多い。たとえ実際に開業しなくても、その気になれば開業できる、という事が結構精神に与える影響は大きいと思います。

 

 

上のツイートは今年のどこかの地方会で実際に堂々とでてきたスライドです。

はっきりこの事実から言えることは、麻酔科学会はフリー麻酔科医(=麻酔科医にとっての開業)を認めていない、ということです。

 

正確にはフリーとして働くと専門医剥奪するということですが、開業したら専門医更新できませんという学会なんて他にないので、これは相当異常な話です。

 

これまでだったら同じ学年の脳外科専門医と麻酔科専門医がいたとしたら、そもそもどっちが偉い、ということは比較できなかったわけです。別の学会ですからね。

しかし今後は「機構専門医」制度になって専門医資格の格が各診療科で統一されたことになるので、今後は脳外科専門医と、専門医がない麻酔科医がいたとしたら、資格の上では専門医のある脳外科医の方が偉い、ということになるのです。

 

どうやら厚生労働省に麻酔科学会のお偉いさんがたが呼ばれて、フリー麻酔科医についてえらく怒られたらしいです。外科学会とか日本医学会とかがフリーの麻酔科医に「法外な給料」をとられていることについて厚生労働省に訴えたようです。法外な給料がいやならオペやらずに他に送ればいいと思うのですが、自分たちがそこでオペをやるのには正当性が何故かあるようです。

 

ともかく、開業というのはNG、病理とか放射線科のようにPCで遠隔診断もできないので普通にどんないやな職場でもそこへ来て常勤として勤務するしかないのです。

常勤としてその病院だけで一生懸命働く、その病院が潰れたら職なしです。つまりいろんな病院で働いてそうなるリスクを減らすリスクヘッジもできないわけです。

麻酔科医になってしまうと、所属学会によって生き方までかなりの部分縛られてしまうのを許容しないといけないのです。

 

フリー麻酔科医でなくても麻酔科の新しい専門医制度では女性医師が出産、子育ての時期に専門医の更新がきたとき、週3回同じ病院で働いていないと専門医剥奪されます。一度剥奪されたらもう一度取得することは普通ないでしょう。

まだ先だと思っていても、いずれ結婚や出産というライフイベントが待ち受けている可能性のある女性医師の先生にとって、 すこしでも働き方の選択肢を狭める診療科は避けたほうがいいと思います。外来しかできない(それでも十分病院には貢献しますが)時期に、一つの病院で2枠しか外来の枠がとれなければ2つの病院で週4回外来やれるわけですが、麻酔科だったら一度とった専門医を剥奪でそのあとは一生専門医なしです。

もし週三回も麻酔科でバイト行ったら常勤医よりも給料高くなってしまうのでNG、週三回契約の非常勤でかなり給料は安くされるのがオチです。

 

他の科だったら機構専門医として生きていけるのに、麻酔科を選んだために専門医をとれずにずっと生きていかなければならないかもしれません。

 

麻酔がつまらなくなった

 

これは結構語弊があるかもしれませんが、「麻酔科の腕の見せどころ」みたいなのがどんどん減ってるんですよね。

昔は

挿管できません!→SpO2低下、、→ウデのいい麻酔科医が現れて一発で挿管、事なきを得る

とか、

epi入りません(T_T)→呼ばれて一発で入れる

とか、

CV入りません、首パンパンに腫れている→え、そんなところから?みたいなところから刺して見事に入れる

とか、

大量出血!!、外科医顔面蒼白→突如現れ(外科医に)「先生、しばらく術野でおさえといて、バイタルはなんとかする、IVRで止められそうなら手配するよ!」とか言って看護師や下の麻酔科医に的確に指示を出し始める

とか、

まぁいろいろ麻酔科医がかっこいい場面があったわけです。

 

僕なんかは将来そんなカッコいい麻酔科医になりたい!てなことを思っていたわけですよ。

まぁかっこよくなくても、普段ぼーとしてるようでも「この人がいたから助かった」という体験がある程度大きいオペ室の現場にいる人間ならだれでもあったわけです。

 

それがいまは技術の発達でほとんどそういう場面がなくなりました。

ビデオ喉頭鏡があるから挿管困難で騒然とする場面激減しましたし、エピなんてほとんどやらなくなったしエコー下で入れたらCVなんて誰がやってもだいたい一発です。

ラパロのオペが増えて出血で困る場面はほとんどなくなりました。

侵襲の少ないオペしかしない診療科の医師からしたら麻酔科医のありがたさを感じることなんてほぼ皆無でしょう。

 

もちろんいいことです。

一部の"腕の良い医者"によって麻酔の安全が保たれているわけでなくなった、ということは完全に医療の進歩の結果です。

 

しかし麻酔科の医者の存在価値というか、矜持というものは最後死なせてしまうかどうかの瀬戸際で、自分の技術によって助けられるかも知れないという点にあったりするので、その「純粋な技術や経験」が介在する場面が激減しているということは、麻酔科診療のいちばん重要なところ、おもしろいところが激減していっている言っていい。

 

麻酔科診療って安全性というのが特に重視される分野ですが、もう十分といっていいほど今の麻酔は誰がやっても安全が担保されているわけです。

もちろん1人しっかりとした人が毎日手術室に1人いるかどうかは未だに重要なのですが、とにかく機器の進歩を含めた医療の進歩により、麻酔科の医者の存在意義が実は急速になくなっているのです。

 

ただ麻酔科、といってもオペ室の麻酔をするだけではありません。

ICU、ペインも守備範囲といえば守備範囲で、そういうのをサブスペシャリティーとしてやっていく道はあります。また麻酔でも心臓手術や移植手術の麻酔は特殊なのでサブスペシャリティーとしてまだ発展する可能性はあります。

 

しかし、今現在サブスペシャリティーをしっかりと持っている麻酔科医は半数もいないでしょう。ICUやペインクリニックが急速に拡大していく見通しはないし、移植や心臓手術がどんどん増える未来もあまり考えられそうにはありません。

 

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 麻酔科はかなり特殊な科です。

特殊だからこそ、いろんな社会の事情により給料がすごく高くなったりする場面があるわけです。

 今後医療経済が崩壊していくのが確実視されるなかで、「専門性」がかなりあやふやになってきているこの診療科を自分の専門科とすることはかなりリスクが高いといっていい。

 

眼科や皮膚科は楽で儲かる科だ、とか言われていますが「専門性」について議論になる場面はありません。学会が「眼科の開業は儲けすぎだ」と開業医を目の敵にすることもありません。

たとえ医療全体が先細りになっていっても変に贅沢しなければ問題なく普通に医者をして専門科として生きていけるでしょう。

 

 

これから長い医者人生を生きていく選ぶ研修医のみなさんには、将来性をしっかりと考えた選択をしてほしいと思います。

 

 

グラフィック麻酔学 臨床が楽しくなる図・式・表

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