ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

麻酔科医の仕事は「周麻酔期看護師」にとってかわられるのか?

こんにちは、ロスジェネ勤務医(@losgenedoctor)です。

 

週間医学界新聞にこんな記事が載っていました。

日本での周麻酔期看護師養成に向けて

医学書院/週刊医学界新聞(第3286号 2018年08月27日)

 

周麻酔期看護師(Perianesthesia Nurse:PAN)とは

"麻酔に関する高度な知識と技術を持った麻酔看護のスペシャリスト"と謳われています。

海外の「麻酔看護士」をベースとして生み出されました。

 

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麻酔科医の監督のもと麻酔ができる看護師」で、気管内挿管や抜管なども行います。術前の患者さんの情報をまとめてくれたり、麻酔の準備をしてくれたり、麻酔の維持期に麻酔科のかわりにそこにいてくれたりするわけです。まるでローテ中の研修医にさせてるようなことをしてくれるということですね。

また無痛分娩の際にカテ入れはしてくれませんが、その後の管理をしてくれたり、内視鏡などの処置の際の鎮静などの役割も担ってくれることを期待されているそうです。

ちなみに神経ブロックや分離肺換気、ASA3以上の重症患者の麻酔などはできないということになっています。

 

生み出された、といってもいくつかの大学の看護学部の大学院で「周麻酔期看護学」という講座ができて、

「看護師の資格があり、麻酔に関する専門知識を修了した修士」が生まれた

という意味で、新たにそういう国家資格ができたというのとは少しニュアンスは違います。

しかし看護師でさらに専門分野の修士を修了しているというのは重要で、なぜかというとアメリカの「麻酔看護士」は修士を修了している、というのが資格の格の点で大きいからです。というか看護師として数年働いてから2,3年かかる修士課程を経る必要があり、じつは日本で言う他の学部の「修士」よりよっぽど取るのが大変です(今後は3-4年かかるDNPという課程になり、博士扱いになるそうです)。

6ヶ月研修を受けるだけの日本の認定看護師とは全然違うわけです。

日本の看護師も同じように麻酔の修士になれば、アメリカの麻酔看護士のように麻酔をするという社会的コンセンサスが得られるであろう、ということです。

 

麻酔というか、挿管や抜管をしていいのは医者だけで、看護師はしてはならないという法律があるわけではないので、ちゃんと修士課程で知識があることを担保されていて、社会的に認知されていけば今後周麻酔期看護師が広がっていく可能性はあるんですね

 

では今後麻酔科医の仕事が周麻酔期看護師(PAN)にとってかわられることはあるのでしょうか?

それはまず当面の間は「ない」と僕は思います。

 

まず、周麻酔期看護学側が明確に「周麻酔期看護師はアメリカの麻酔看護士とは違う」と表明しています。

アメリカの麻酔看護士は麻酔科医の監督の下で麻酔をする場合もありますが、監督なしで自分だけで麻酔する人も場合も多く(州や施設による)、どちらかというと看護師だけで麻酔をする流れのほうが強いようです。

一方日本の周麻酔期看護師はあくまで麻酔科医の監督の下で麻酔を行うことを目指す、とはじめから言っているのです。

 

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あと一点は、施設の集約化の問題があります。

麻酔科医マンパワー不足に対する日本麻酔科学会の対策

という資料の中に

「日本の病院では、全身麻酔は 1 日平均1~2件程度しかない。(全身麻酔を行う病院数は、 平成 17 年(2005 年)で 3912 箇所。全身麻酔数は同年 9 月一ヶ月で 167799 件であったか ら、一箇所あたり平均の全身麻酔数は、42.9 件/月。1 日1~2件程度。厚労省医療施設調 査。)このような病院では、麻酔看護師は麻酔科医数節減に大きな効果がないと予想される。 」

とあります。

要は一日に1,2例しか全麻症例のない小さい病院が日本にはたくさんあり、そんな多くの病院では周麻酔期看護師の出番はないわけです。どうせ一人は麻酔科医が必要なわけですから。どっちかというとそういうちょっとしか手術の無い施設でオペをするのをやめる、といったことを進めないと意味ありません。

あと、緊急手術のためのオンコール、当直は一日一人は麻酔科医が必要なので、その意味でも施設を集約化しないと麻酔科のマンパワーを補填するという意味で十分ではないでしょう。

 

周麻酔期看護師修了者はいま17人いるそうです。

今後しだいに増えてくるでしょうが、日本全国に普通にいる、というようになるには10年以上、いや20年以上かかるでしょう。アメリカに麻酔看護士は約4万人いるそうですが、1860年くらいからの歴史があるわけです。

そもそも麻酔看護師という文化が根付くかどうかもわかりませんし、周麻酔期講座を修了した看護師さんのどのくらいの割合が麻酔看護師として働くかも分かりません。

コスト削減のために医者にやらせていた仕事を看護師にやらせよう、という発想からでてきているのは明確なわけで、周麻酔期看護師にたくさん給料が払えるわけではないでしょう。普通の「看護師」として働けず、麻酔科研修医みたいなことずっとやるのに給料は普通の看護師とおなじ、そんなの面白いでしょうか?

ちなみにアメリカの麻酔看護士は平均年収1200万だそうです。

 

 今後急性期施設の集約化がすすみ、周麻酔期看護師も順調に増えていけば20年後くらいには麻酔科医+麻酔看護師でオペ室を運営するというようになっている可能性はありますが、どうなるでしょうか。

麻酔科の研修医ローテーションはどうなるんでしょう?

 

麻酔の達人-実践麻酔手技免許皆伝-

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  • 作者:中田善規
  • メディカルサイエンスインターナショナル
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