ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

COVID対応麻酔、自分なりのやり方を紹介します

こんにちは、コッカーマリン(@losgenedoctor)です。

今はコロナ対策の麻酔をしなければいけないようになっているのですが、みなさんの施設ではどのようにされているでしょうか。

こればっかりはまだスタンダードというものがないので、施設によってまちまちだと思うのですが、一つの例として僕の現時点でのやり方を紹介します。

 

麻酔方法の選択

学会の声明では区域麻酔で可能な場合はできるだけ区域麻酔を選ぶようにという提言がありましたが、実際やっていると区域麻酔のほうが患者からの飛沫を防げるかどうかは微妙だな...と感じています。

というのは、おとなしくしている患者さんばかりではなく、術中動き回ろうとしたり大きな声を出す人もいます。

かといって鎮静をしているとだんだん喀痰が溜まって大きな咳をしたりする人もいて。

挿管しているほうが飛沫が飛ぶタイミングが分かりやすいのでむしろ安全なのではと思うときもあります。

なので特に全麻を避けようとは今は考えていません

挿管とラリンジアルマスクのどちらがいいのかは自分の中であまり結論は出ていません。特にこれまでと適応は変えていません。

 

導入

エアロゾルボックスを使うかどうかですが、挿管が容易であることが予想できる場合は、Rapid Sequence Induction(迅速導入)としマスク換気しないので、エアロゾルボックスは使っていません。

マスク換気さえしなければ麻酔導入ではあまり飛沫が飛び散ることはないのではないでしょうか。

エアロゾルボックスをいちいち全例に導入から使うのは大げさだし、わりと面倒くさいですよね。挿管もやややりにくいですし。

 

挿管してから不潔であちこち触らなくてもいいように、二重手袋の装着はかなり重要だと思います。とにかく挿管して患者さんに直接触れる手技が終わったら、一番上の手袋ははずす。

僕は挿管したらチューブと蛇管との接続、マニュアル換気から機械換気への切り替えも看護師さんにしてもらうようにしました。なんか変だけど別に慣れれば別にどうってことないです。逆に看護師さんには患者さんの顔周辺を触らせないように指導します。

 

胃管アイパッチバイトブロックチューブの固定テープや分泌物を拭くガーゼなどはすべて手元においておきます。導線を短くする、ということですね。

挿管してからあれやこれや探して触ることで不潔になる場所が増えます。

もちろん患者さんに触れた手で絶対に麻酔器を触らないようにしています。

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患者の顔周辺に暴露された物を入れる専用のプラスチックケースも用意しています。挿管などの後で、飛沫が付着した可能性のあるものは全部そこへ入れる。

具体的にはカフ用注射器マックグラスなどでしょうか。

 

あとビニール袋を2枚用意しておきます。

一枚は患者さんがしてきたサージカルマスクを入れる用、もうひとつは麻酔マスクを入れる用です。一番暴露されやすいので慎重に。

 

導入周辺の動作で意外とこれリスクあるなぁと思うのが、胃管の挿入です。一回で入らない時口に手を入れざるを得ないときもあるし、入らないなぁとか言って出し入れしていると、チューブに付いた分泌物がそのへんについたりします。なぜか胃管を入れるときって、みんなメインの手技が終わった感じになって気が抜けて注意散漫になっていたりするので、実はウイルスに暴露されるタイミングなんじゃないかと思っています。

そもそも胃管入れるなという話もあった気がしますが、ラパロのオペのとき等やはり入れないといけないことはあります。

 

麻酔維持中

挿管していれば麻酔維持中は基本的に安全だと思います。体位変換とかでチューブと蛇管のつけ外しするときは、必ず人工鼻の手前で蛇管を外すようにします。そうすれば人工鼻でウイルスがブロックされますので、環境を汚染することがありません。

 

PPE

N95をいつもつける、なんてことはしていません。そもそも潤沢にあるわけじゃないし、N95はそもそも空気感染する結核菌などを対象にした製品であり、飛沫感染するコロナウイルスに対して使うことに疑問があるからです。

使うのは病院のルールで使わないといけない場合だけです。

ビニールの前掛けのなんてものも、麻酔するときに使うのはあまり意味がないと思っています。飛沫の飛ぶタイミングや方向が分かっているのならつける意味合いは相当低いと思います。これも病院のルールがある場合だけです。

アイゴーグルはしっかりと着けています。細かいエアロゾルに含まれたウイルスが直接自分の粘膜面に取り付くのは気持ち悪いですからね。

 

抜管

部屋からできるだけ人を外に出します。もし患者さんがあとからコロナ陽性であったことが判明した場合に備えて、少しでも接触者を減らしておくべきです。

 

エアロゾルボックスを必ず使います。ボックスの中に予めビニール袋(抜管したチューブなどを入れる)、カフ用注射器麻酔マスク患者サージカルマスク吸引チューブ汚れを拭き取るガーゼを入れておき、一回手を入れたら極力出し入れしないように気をつけて、操作すべてがボックスの中で一人で完結するようにします。外から看護師が手を入れて介助するようなことをさせないということです。

エアロゾルボックスの手を入れるところからエアロゾルが出てくるという話があるので、そこに顔を近づけないように気をつけます。

エアロゾルボックスの上にアルコール清拭の布をおいています。抜管して手を抜いたあと、自分の前腕をそれで拭くようにしています。
 

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エアロゾルボックスで要注意だと思うのは、ボックスを抜く時ではないかと思っています。某岩田健太郎先生もいつも「PPEは脱ぐときが一番危ないんだ」と繰り返しておられますが、エアロゾルボックスでもおそらくそうでしょう。僕は介助の看護師も全員離れさせて、自分ひとりでそーっと抜くようにしています。

 

実はコロナ対応の抜管で一番大事なのはしっかり覚ましてから抜管するということだと思っています。中途半端な麻酔の抜けで声をかけ、暴れさせて抜管となると、どうしても(患者がマスクをそのあとしっかりやってくれなかったりして)周辺が暴露されやすくなると思います。

しっかりときれいに覚ますためには時間がかかることがあるため、外科医や看護スタッフに「コロナ対応の麻酔で覚醒に多少時間がかかるかもしれない、協力してもらいたい」と前もってカンファレンスなどで伝えておくのがいいと思います。

焦って抜管して患者さんが暴れてみんなが濃厚接触者になってしまう、という事態は患者の急性期の術後状態に責任を持つ麻酔科医としては避けないといけません。

 

これに関してはこのニュースをみて思いを新たにしました。

news.yahoo.co.jp

コロナ感染者がせん妄になったらとても危ないと思います。感染対策なんて実質難しくなります。

麻酔を専門とする医者として一つやれることは、術後の興奮やせん妄を避けるような質のよい麻酔をこれまで以上にやる、ということではないでしょうか。

 

抜管後はなるべくはやくサージカルマスクを着けさせますが、口の中の観察も怠らないようにします。

 抜管後患者と話す時つい顔を近づけてしまいそうになりますが、なるべく避けます。

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以上ですが、そこまでオペ室では気にしなくてもという意見もあるだろうしもっと気をつけないといけない、という人もいると思います。

どっちにしてもあやふやなまま不安を感じてやるのは良くないし、麻酔科医がしっかりと理屈を説明して「これでこれからはやっていく」、と宣言してやらないと看護師さんたちも不安になると思います。

 

また、しっかり対策をとっていれば、もしオペをした患者があとからコロナ陽性であっったことが判明した場合に堂々と自分は濃厚接触者じゃないと言い切れます。

自分も周りも感染しないように現実的かつ十分な対策をとり、それでも存在するであろうリスクに関してはある程度覚悟しておく。

 

それが一番いまクレバーな麻酔科医のコロナに対する対応なのではないかと思うのですが、どうでしょうか。 

 

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