ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

麻酔科の世界の破壊的イノベーションといえば

こんにちは、コッカーマリンです。

 

gendai.ismedia.jp

 

ビジネスの世界では常にイノベーションが起きていて、確実に変化が起こっています。

みんながより便利により快適に、と願い続ける限り変化しつづけるんですね。

 

医療の世界でもイノベーションはどんどん進んでいます。

外科の自動吻合器、ダビンチなんかもイノベーション。

血管内治療へのシフトなどもイノベーションでしょう。

 

麻酔科ではどうでしょうか。

外からみたらそんなに決定的なイノベーションなんて分からないと思いますが、僕が医者になったときからおきた麻酔科領域でのイノベーションを3つ挙げろと言われたら、

レミフェンタニル

エコー

ビデオ喉頭鏡

の3つを挙げますね。

 

昔はレミフェンタニルがなかったので、術中の痛みなどの侵襲に対してフェンタニルを入れて対応するしかなかったんですね。

フェンタニルの作用半減期は十分短いのですが、手術中に必要なフェンタニルの血中濃度が術後鎮痛に必要なフェンタニルの濃度より何倍も大きいので、手術が終わって目が覚めた時にある程度鎮痛を効かせておこうとすれば、手術の最後のほうになったらうまく使用量をテーパリングしていかないといけないわけです。

しかしフェンタニルは繰り返し入れると蓄積していくので、投与をやめても血中濃度が下がりにくくなります。

肝代謝の薬なので、そのあたりも調節を考えないといけない。

なので術後の呼吸抑制がよく問題になったのです。

 

なので麻酔科医のウデの見せ所がそこにはあって、手術・患者に合わせたうまいフェンタニルの使い方というものがあったんですね。

 

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その匙加減みたいなのが、レミフェンタニルの登場によってあまり使えない技術になってしまった。

レミフェンタニルはフェンタニルと違って持続静注で使う薬なのですが、血中の非特異的エステラーゼによりとても速やかに分解されるので、よっぽどのことが無い限り術後の呼吸抑制が問題になることないんですね。

極端に言うと手術中たくさん使っておいてバイタル安定させて、終わってから切ったら終わりなわけですよ。

 

中心静脈カテーテルの留置、というのは麻酔科の仕事の一つで、昔はメルクマール法という要するにブラインド(盲目的)で針を刺していました。

「このあたりかな。。」と狙いをつけて大事な(そして危ない)組織のある周辺に針を刺すわけです。

 

下手・未熟な人が刺したら全然入らない時間かかる&間違ったところ刺して合併症、

上手い人が刺したら一発で5分で終わる、みたいな技術だったんですね。

僕もCVカテ入れるの得意だと自負していました。

 

しかし医者になって5年目くらいからエコーガイド下にやるのが当たり前になってきて、これまでの技術が意味なくなってしまいした。

超うまいベテランのブラインド穿刺より、普通の先生のエコーガイド下の方が合併症少ないというんからしょうがないんですよね。

 

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マッキントッシュ喉頭鏡は医療器具の中でも超名作で、第二次世界大戦のころにイギリスで開発され世界中で使われ続けてきました。

挿管するための道具として完成度が高く、これまでたくさんの人に福音をもたらしてきたわけですけど、この道具だけではいわゆる「挿管困難」の頻度を無視できる程度にまでは下げられなかったんですね。

 

マッキントッシュ喉頭鏡だけしかない時代は「挿管困難だ!」とオペ室が大騒ぎになること相当よくありました。

そこで「ウデのいい麻酔科医」みたいなのが出てきて、見えない声門からうまいこと挿管するんですよね。

マスク換気も難しくてSpO2が下がってきて、ラストチャンスだ!みたいな感じでボスが挿管操作しているような現場を経験すると、あぁ麻酔科って怖いけどこんな最後の砦になるような麻酔科医に将来なりたいな、と思ったものです。

 

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しかしエアウェイスコープとかMcGRATHなどのビデオ喉頭鏡が臨床で使われだして、挿管困難で騒ぐ頻度って相当レアになりました。

むちゃくちゃ挿管難しそうな患者さんの挿管、昔だったらチャレンジもさせてもらえなかったであろうゆるふわ修練医みたいなのがバンバン一発で入れるんですよね。

 

ビデオ喉頭鏡があれば挿管困難なんて起きません、というわけではないし気道管理の上手い麻酔科医とそうではない麻酔科医というのは厳然としてありますが、頻度って大事ですよ。

みんなが大騒ぎするような挿管困難が月に2,3回起きるのと、年に一回あるかないか、臨床的なインパクトは全然違います。

 

これらのイノベーションは患者さんには利益が多くて素晴らしいことだし、麻酔科も楽になりました。

一方それらによって麻酔科診療のコモディティ化は確実に進みましたよね。

つまりイノベーションによって熟練工でなくても誰でも車が作れるようになったのと同じことが起きたと考えられます。

 

神経ブロックとか経食道心エコーとかを頑張る麻酔科医が今多いのもある面では麻酔のコモディティ化によって居場所のなくなった麻酔科医が新たな活躍の場を探している、と考えられないこともありません。

それによって新しい仕事の場が出現するほどのインパクトは無いと僕は思いますが。

 

他の業種ならコモディティ化の進んだ仕事というのは徹底的に買い叩かれて給料が下がるんですけど、医者のする仕事で参入障壁があるのでそう簡単に仕事が減るわけではないです。

しかし、実は今の麻酔科医療は参入障壁、特殊市場の非効率によって担保されているということを忘れてはいけません。

麻酔看護師が一般的になって病院が大規模に集約化されていけば、麻酔科の医者の需要は今よりもっと減るでしょう。

これはまず確実だと思います。

 

今現在麻酔科でメシを喰っている先生、これから科を選ぶ研修医の先生たちはこのあたりをしっかりを意識して生きていく必要があります。

 

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