ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

手術に関わる医療者は全員読むべき、麻酔科学会が発表した「新型コロナ(COVID-19)疑い患者への麻酔管理」のアップデート

こんにちは、コッカーマリン(@losgenedoctor)です。

 

ちょっと前ですが、麻酔科学会から「新型コロナ(COVID-19疑い)患者への麻酔管理」のアップデート版が発表されました。

anesth.or.jp

 

 3月3日にコロナ疑い患者への麻酔についての、麻酔科学会から出された初めの声明に関するエントリーです。 

www.cokermarin.com

 

今回の声明の内容を見てみたいと思います。

*赤字太字は僕が付け加えたものです。

 

2020 年 3 月 3 日に、日本麻酔科学会から『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(疑い、診断済み)患者の麻酔管理、気管挿管について』の指針を発信して以来、感染者数は大都市圏を中心に急増し、4 月 7 日に外出自粛などを要請する緊急事態宣言が全国に発令されました。1日の報告感染者数は 4 月 10 日前後でピークを迎えた後に減少し、5 月 27 日には緊急事態宣言が全国で解除されました。
麻酔科医が行う全身麻酔は挿管、抜管ともに代表的なエアロゾル発生手技であり、この 3 ヶ月間、日本麻酔科学会会員が現場の最前線で麻酔・全身管理を担当してこられたことに、深く敬意を表します。再度の感染者数増加も否定できない状況であり、ここから先は、感染予防を考えながら医療を推進するフェーズに入るものと思われます。今後も医療従事者の感染、および患者への感染拡大を防ぐことは最重要課題であり、十分な感染対策のもと COVID-19(疑いを含む)患者の緊急手術の麻酔を担うとともに、非COVID-19 患者への手術医療を可能な限り継続することは麻酔科医の使命です。患者とともに麻酔科医の安全を守りながら、病院機能を維持し続けるという困難なミッションを継続するためには、感染者数が抑制されている間に、以下のような第 2 波への準備を行うことを推奨します。ただし、施設内に感染制御の専門部門を有する場合には、当該部門と協議の上、適宜変更してください。

 

*この声明が出されたのは2020年7月22日であり、書かれたのはさらにそれよりさらに前だと考えると、その時はまだ第二波がそれほどはっきりはしてなかったんだろうな、と思わせます。

 

1.自施設の地域及び近隣の感染状況などを総合的に考え、感染対策再強化のタイミングを想定しておく:感染のピークは、感染者数のピークよりも約 10 日早い可能性も考慮する。客観的な指標を用いることが望ましいが、状況を見て臨機応変により望ましい指標やタイミング設定に変更することも躊躇すべきではない。


2.院内感染対策部門と協議し、術前検査(PCR,胸部CTなど)体制や個人防護具の在庫状況を再検討する:第 1 波と同等の感染者数増加に対応するためのシミュレーションを行う。感染リスクを高めず消費量を減らす工夫も検討し、実施可能性も確認すべきである。

3.術前準備は、「COVID-19 時代の術前準備」 (APSF)を参考にする。

4.COVID-19 診断または疑い患者の手術対応シミュレーションを実施する:施設により適切な対応方法が異なる。多職種を含めた手術チームとして、手術室内ばかりでなく、病室や救急外来からの手術室入室、手術室から病室や ICU 入室までも含めたシミュレーションを行う。

5.非 COVID 患者に対しても必要な医療を継続して提供する体制に貢献する。非 COVID 重症患者と COVID 重症患者への院内重症患者対応リソースの配分を検討しておく。

6.新型コロナウイルス感染症の蔓延は災害である。各部署における業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定を推奨する:
・手術室や集中治療室における診断確定(疑いを含む)患者が増加した場面
・これらに勤務する職員の濃厚接触が疑われた場面(エアロゾル発生手技時の N95、PPE 未装着を含む)
・後になって患者の陽性が判明した場面など
医療ニーズと医療資源の需要供給バランスの経時的な変化を想定し、COVID 重症患者のみならず非 COVID重症患者の治療を継続するための計画を立て院内に周知しておくことが重要である。具体的には、手術室や集中治療室の勤務体制(相互バックアップ)や稼働の検討、PPE の調達などについて、検討しておく。

7.感染者数ピークアウト後の手術件数回復のタイミング、方法も検討しておく。

 

4 月 22 日より情報収集を開始した『COVID-19 陽性患者もしくは疑い患者に対する感染対策 Case Report』には、6 月 28 日までに COVID-19 陽性患者 23 例、疑い患者 83 例、合計 106 症例が報告されています。陽性例では帝王切開術が 6 例と最も多く,疑い例まで含めると開腹手術 23 例が最多で、次いで帝王切開術 20 例、さらに多種多様な手術が行われております。症例経験施設でのシミュレーション実施率は、74%に留まっていました。シミュレーション未実施の施設は、準備を行ってください。

 

*自施設のある地域での流行にいつも留意して、感染対策のレベルを変化させることが推奨されているようです。何を参考にすればいいのか、というのはまだまだ議論の余地がありそうですね。

術前検査に胸部CTやPCR検査も考慮せよ、というように読める部分もあります。これはそれぞれの施設のICTなどと協議して決めていくしかないでしょうね。この辺りは難しい問題がいろいろとあると思われます。

COVID-19疑いの人が来た時の手術、麻酔のシュミレーションをしておけ、と書いてあります。僕のところは、基本的に全員COVID-19であるという心づもりではやっていますが、正式にシュミレーションという形ではやっていないので、検討しようと思います。 

出口戦略についても書かれていますね。「いつ通常営業に戻すか」というのも決めておかないと、いつまでも窮屈な対応を迫られますからね。

 

COVID-19 時代の術前準備
術前患者においては以下の方針を提言する。
感染制御の専門部門や主治医と協力して、検討すること。

 

患者教育
COVID-19 では自覚症状がないままに感染していることがある。
COVID-19 患者が全身麻酔による手術を受けると
→手術に関する危険性が増える。
→術後の合併症の可能性が高まる。
→医療従事者への感染のリスクがある。

患者への要請
→感染予防のため入院 2 週間前から外出や同居家族以外との食事をできるだけしない。
→常時マスクを着用すること。

 

*患者さんへの説明や、要請というのは実はかなり(というか一番)重要ではないかと思っているんですが、実はコロナに感染したまま手術を受けるといろいろと不利益があることをお伝えすることは重要だと思います。

いくら言っても「わしゃ気にせん、だいじょうぶや」とか言ってくる人も多いんですけどね。。

"入院 2 週間前から外出や同居家族以外との食事をできるだけしない"ようにしてもらいたいですが、緊急手術やそれに準じる手術もたくさんありますので、なかなか難しい面はあります。

 

術前 COVID-19PCR 検査に関して
常に地域での COVID-19 発生状況を調べておくこと。

 

COVID-19 発生地域
1. 全ての患者は来院前に症状の確認を受けること。症状のある患者ではさらなる評価を受けること。
無症状の患者はすべて入院前日までに PCR 検査を受けること。
入院後の胸部 CT 検査も必要に応じて考慮する。

2. 偽陰性結果は起こりうるので手術室スタッフは飛沫防御(サージカルマスクとアイシールド)を行うこと。
エアロゾルを発生する処置を行うときは、室内にいる医療者は N95 マスク、アイシールド、二重手袋、ガウンを着用すること。

3. もし PCR 陽性の場合には予定手術は回復するまで延期すること。

*回復の基準
(1. テストによるもの)
解熱薬無しで発熱無し
呼吸器症状がない
PCR 検査が 2 回陰性(24 時間以上空けて)
(2. テストによらないもの)
最低 72 時間以上解熱薬無しでも発熱無し、呼吸器症状無し
発症から 7 日以上経過していること

COVID-19 が発生無しまたはほとんど無しの地域
1. 全ての患者来院前に症状の確認を受けること。

2. 症状のある患者ではさらなる評価を受けること。

 

 *ここへ来ていきなりトーンが変わった気がしたのですが、"COVID-19発生地域"と"COVID-19無し地域"に分けて、"COVID-19発生地域"では無症状の患者は入院前日までに全員PCR検査を受けるように推奨しています。

自施設がCOVID-19発生地域かどうかの定義ってはっきりしたものがあるのか?という点と、術前PCRを無症状でも全員にやるのかどうかもう結論出してしまって良いのかという気は正直しました。

 

 しかし先日こんなアンケートをツイッター上でやってみて分かったのですが、麻酔科学会の推奨の通り、術前にコロナのPCR検査を必須としている施設はすでにかなり多いようです。

 

僕の施設周辺は今のところ周囲にどんどんと感染者がでているような状況ではないですが、一度ICTと相談してみようかなと思っています。

たしかに一般的には術前にルーチンでHBVとかHCVの検査をやりますが、費用や手間などのことを考慮しないなら今は新型コロナの術前検査をやっておくのが妥当なのかもしれません。

 

ただ、その場合でも偽陰性には注意が必要です。PCRが陰性で症状もない、この人は絶対コロナじゃない、となって対応する医療者の気が緩んだら、おそらくそれが一番危険ではないかと個人的には思っています。

 

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