ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

【コロナ挿管ガイドライン】コロナ感染者、コロナ感染疑い患者に挿管する場合の注意点

こんにちは、コッカーマリン(@losgenedoctor)です。

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麻酔科学会から3/3、以下のようなリリースがなされました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(疑い、診断済み)患者の麻酔管理、気管挿管について

PDFで読みにくいので以下に書き出します。

注意が必要な箇所に赤字や下線、解説を付け足しています。

 

1、 手術室内での麻酔管理について:緊急手術時の全身麻酔と区域麻酔

1)自身とチームの感染制御

  • 最優先事項である。自己汚染をさけるために細心の注意を払う。
  • すべての手技の前後に、適切な手指衛生を実践する。
  • 操作を行う前に、環境、個人防護具、器材、手順をチームで確認する。

2)器材の準備を行う

・麻酔器(人工呼吸器)、モニタリング、末梢静脈路、挿管器具、薬剤、吸引装置を確認する。

  • 筋弛緩モニターが利用可能であれば準備する。
  • ウィルス除去率の高い高性能疎水性フィルター(人工鼻)を用いる。

通常使われている人工鼻はウイルス除去率99.99%以上なので大丈夫です

 順番:患者-フェイスマスク-閉鎖式吸引カテーテル-人工鼻-ガスサンプリングチューブ -麻酔回路 Y ピース接続部

閉鎖式吸引カテーテルというのはこういうICUとかでよく使われているやつです

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3)気道確保器具の選択と設定 ・ビデオ喉頭鏡を準備する。(ディスポーザブル製品も考慮する。)

4)環境を整備する

  • COVID-19 診断患者の手術は、できる範囲で陰圧管理が可能な手術室を使用する。

陰圧にできる手術室で行うべきであるとなっています。結核患者のオペをする時に使う部屋です。大きな病院には一部屋くらいあるはずです。

人工関節の手術などをする「クリーンルーム」とは違いますよ。 

  • 手術室への医療従事者の出入りを最小限にする。

やむなく通常の陽圧の部屋でやるときなど、特に注意したほうがいいかもしれないですね...

あんまり好き好んで入ってくる担当者以外の人あんまりいないと思いますけど

  • 麻酔器の余剰ガス排出装置への接続と作動を確認する。

5)麻酔方法を選択する。

  • 区域麻酔で可能な手術は、区域麻酔で行う

ちょっと意外でした。全麻で挿管してるほうがウィルス塞げて良さそうなのに、、と思ってましたけど。

後述されるように、どうも挿管抜管の時のエアロゾルの飛散がアカンようで。

区域麻酔は悪い選択肢ではないようです。

 患者への外科用手術マスク装着が必要。

オペ室で使うサージカルマスクを患者さんにもつけてもらうということです。

N95はいりません。

 通常の区域麻酔を実施するが全身麻酔への移行も念頭に置いた準備が必要。

  • 意識下挿管は避ける

局所麻酔時、気管挿管時の咳嗽誘発で、ウィルスが混入したエアロゾルを発生させるリスク が高い。

これ面白いと思いました。ですよね。咳しますしね。

誤嚥するリスク<ウイルスを周囲が吸い込むリスク ってことでしょうか。

  • 迅速導入が望ましい

状況により急速導入を行う場合は、患者の呼気が空気中に漏れないように工夫する。 二人法、あるいは麻酔器の人工呼吸器を設定して換気するなど

急速導入よりも迅速導入の方がウイルス含んだエアロゾルが飛散する量が低いであろうということですね。 

6)入室前に、麻酔科医と看護師で麻酔計画のブリーフィングを行う。

ブリーフィングというのは軽い話し合いということです。手順を話し合っておいて、バタバタしないようにするのがいいでしょうね。

迅速導入でやりますね、みたいなのもちゃんと言っといたほうがスムーズでしょう確かに。

・実施者(経験豊かな麻酔科医が実施できるように努める)および介助者(輪状甲状軟骨圧迫を 実施できる熟練した介助者を確保する)の選定、器材、挿管方法、手順の確認

はじめから一番うまいベテランがやりましょう、ということですね。

年取った人の方がかかった時のリスクが高いから若い人にやらせましょう、とはさすがにならないようです。

ロスジェネくらいの先生の出番かもしれないですね。 

7)全身麻酔導入方法

患者の解剖学的特徴と以下のポイントを考慮して導入方法を選択し、チームで共有する。

ポイント1:十分な筋弛緩を得る。咳嗽反射を誘発しない。

ポイント2:肺炎併発などで低酸素血症を来す場合は、マスク換気を行う。

ポイント3:マスク換気の際、呼気が空気中に漏れないように注意する。

迅速導入でも一発でいかなくてマスク換気しないといけないような状況になっても、なるべく漏れないように頑張りましょう。

★迅速導入が望ましい。

  • マスクを密着させ、100%酸素で十分な前酸素化を実施する。
  • 入眠後、直ちに十分量の筋弛緩薬を投与する。(Rocuronium 1.2mg/kg 静脈内投与)
  • 筋弛緩モニターで筋収縮消失を確認後に、気管挿管操作を開始する。
  • 気管挿管後、直ちに気管チューブカフに空気を注入する。
  • 気管内への挿管は、カプノグラム波形で確認する(聴診は感染リスクを高め必須ではない)。

これも面白いと思いました。聴診は薦められてないんですね。

  • 呼吸状態は、胸郭の動き、カプノグラム波形、気道内圧、一回換気量などで総合的に判断する。 ※筋弛緩薬の効果が不十分、または低酸素血症が進行する場合はマスク換気を行う。
  • マスクを密着させ、二人法、または人工呼吸を開始する。 人工呼吸器設定は、一回換気量 6-8ml/kg 程度を目標とし変更する。
  • 介助者が輪状軟骨圧迫を加える。 ※マスク換気の代わりに、環境汚染が少ない声門上器具の使用を推奨する文献もある。 その場合も一回換気量は少なめにする。
  • 気管挿管後の患者に触れた廃棄物、リユース器具は、密閉可能な袋に入れて廃棄あるいは消毒 に出すなど、各施設の感染制御手順に従って処理を行う。

8)手術中呼吸管理

  • 一回換気量 6-8ml/kg 程度で維持する。
  • 術中のバッキングを避けるため、十分な筋弛緩状態とする。

バッキングはより避けたほうがいいということでしょうか。

  • 酸素化障害(PF 比 200 以下)が進行する場合は、PEEP を増加させ高炭酸ガス血症は許容する。

肺の圧損傷を避ける戦略をとりましょうということでしょうね。通常のARDSでの呼吸器戦略が強調されています。

9)麻酔の覚醒・抜管時の注意点

  • 酸素化障害(PF 比 200 以下)が進行する場合は、術後人工呼吸管理継続を考慮する。
  • 麻酔科医が通常行っている覚醒・抜管手順でよいが、咳嗽反射を最小限とする工夫を行う。
  • 不必要な気管内吸引は実施しない。
  • 口腔内吸引は、深麻酔下に十分行う

覚醒してから嫌がるのを押さえて口腔内吸引、なんてのは駄目ということですね。

  • 平圧抜管(コネクターは外さずに、回路内を大気圧とする)を考える。
  • 加圧抜管はウィルスの混入したエアロゾル発生のリスクが高いという認識を持つ。

加圧抜管は駄目だそうです。やる先生減ってそうですけど。

  • 抜管後は、患者に外科用マスクを装着し、その上から酸素マスクを装着する

サージカルマスクの上から酸素マスク。ちょっと抵抗ありますけど、まぁコロナの人なら仕方がないのかもしれません。

  • 抜管後の回路、特に人工鼻より患者側の器具、および口腔内吸引器具は、密閉可能な袋に入れてから廃棄ボックスに入れるなど、各施設の感染制御手順に従って処理を行う。

10)患者の手術室外への搬送

  • 担当麻酔科医から手術室外で待機する医師による患者全身管理継続が円滑にできる工夫を行う。
  • 汚染領域である手術室から清潔領域への移動手順を十分に検討してから患者を搬送する。

11)実施後の感染制御

  • 自身の感染制御に注意する。個人防護具を外す際、および外した後に未消毒の手で髪の毛や顔 を触ってはいけない。適切な手指衛生を実施する。

 

2、 手術室外での気管挿管について:呼吸不全患者への挿管

1)自身とチームの感染制御

2)器材の準備を行う

3)気道確保器具の選択と設定 1)~3) 手術室内での麻酔管理に準ずる。

4)環境を整備する ・気管挿管を実施する場所への医療従事者の出入りを最小限にする。

5)導入方法を検討する。

・意識下挿管は避ける。

局所麻酔時、気管挿管時の咳嗽誘発で、ウィルスが混入したエアロゾルを発生させるリスク が高い。

・迅速導入が望ましい。

6)短時間で実施できるように麻酔科医と看護師でブリーフィングを行う。

7)気管挿管実施方法

6)、7) 手術室内での麻酔管理に準ずる。

8)呼吸管理 ・ARDS の管理に準ずる。

9)抜管時の注意点

10)実施後の感染制御

9)、10) 手術室内での麻酔管理に準ずる。

手術室外でも基本的にオペ室でやるときと同じようですね。

 

以上です。

 挿管する際のPPE(個人防護具)に関する記載は明確にはありませんでしたが、日本環境感染学会のガイドラインから考えると、挿管・抜管する際に患者の周りにいる人は、

・N95マスク

・ゴーグル

・ガウン

・手袋

が推奨されると思われます。

患者はサージカルマスク、こっちはN95マスク、です。

www.kankyokansen.org

 

いつも麻酔科学会だめだーとかばっかりこのブログでは言っていますが、今回のはグッドジョブだったと思います。

 コロナがだんだんと身近になってきて、誰にとっても対岸の火事じゃなくなってくると思うので、今回の麻酔科学会の出したこのガイドラインは今後結構参照されることになると思います。