こんにちは、コッカーマリンです。
手術医療の世界では、コロナ蔓延している今、いかにして手術医療を継続するかが話題になっています。
オペをすべて取りやめるわけにもいきません。
コロナでなくても、手術しないと死んでしまう患者さんがいるわけですから。
かといって通常どおりオペをするわけにもいかない。2つの理由です。
一つは手術をするという医療行為は、患者さんと医療者が濃厚に接触する機会を増やすので、患者さんがそうと分からずコロナ感染者だった場合、こちらが感染してしまう可能性があるということ。
もう一つは、コロナに実は感染していて免疫が働いて抑え込もうとしている時期にたまたま麻酔・手術が重なってしまった場合、コロナ感染症を発症してしまったり重症化させてしまったりする懸念です。
後者についてはこんな少し話題になった論文があります。コロナの潜伏期間中に手術をした患者の、実に20%が手術後COVID肺炎で死亡したという話です。
詳細不明だしデータの出し方もいろいろとツッコミどころが多い論文なのでかなり差し引いて考えないといけませんが、麻酔で挿管・陽圧換気をしますから肺に悪さは当然しますし、手術医療自体が免疫力の低下は必ず引き起こすことを考えると、相当今の時期手術というには慎重になるべきでしょう。
で、前者ですが、やはりこちらが感染しないようにすることは重要です。
全部の患者を基本的にコロナウイルスのキャリアと考えて対応するべきでしょう。
しかし物資の制限がある以上、そのあたりの兼ね合いは必ず考慮する必要に迫られます。
たとえばすべての症例にN95をスタッフ全員がつけることを手術部が要求したら、必要な手術がすべてはできなくなります。
やはりある程度はコロナの可能性が高い症例低い症例などを分けて対応せざるをえないのが現実ではないでしょうか。
挿管・抜管について麻酔科学会からもガイドラインが出されています。
それを記事にしたものです。
これ以外に、実際に麻酔をやっていていろいろと自分で考えることがあります。
まずとにかく全麻(挿管とかラリマとかいれるやつ)は避けて、局麻・脊椎麻酔・ブロックでやれるやつはそれでやった方がいいとされていますが、実際にやっていてまさにそう思います。
気道になにかモノ入れたくないんですよね。
鎮静をうまくかけたら、患者さんの体験としてはほぼ全麻みたいな感じにほとんどはできるはずです。
ただ、認知症高齢者とかにそれやってると、鎮静がかかりすぎて舌根落ちたり咳き込んだり、脱抑制っぽくなって変にでかい声を張り上げ始めたり、それって本末転倒です。
うまくやらないといけません。
あとそれだけでオペを完遂しないといけないので、ブロックは本当にちゃんと効いてないとツライです(麻酔科医なら意味分かるでしょうw)。
どうしても気道確保デバイスを入れないといけない場合。
できたらLMA(ラリマ)がいいでしょうね。気管挿管すると最後どうやってもかなりの割合で咳き込むし、病棟に帰る途中帰ってからも咳き込んでやっぱり気持ち悪い。
ただ、LMAの場合たまに覚めかけで息こらえ、声門閉鎖をおこして換気が難しくなることがあり、挿管の時みたいに気道がしっかりシールされていない状態で高い圧がかかるのはちょっと嫌。
LMAでやれない場合でも、手術が終わった段階で気管チューブからLMAに入れ替え、それから覚ますというやり方をしようとしている先生がいました。
確かに抜管時に咳き込むのは減らせるかもしれませんね。
しかし手技が増えることで落とし穴をわざわざ増やすという可能性もあるし、入れ替えの時はある程度麻酔を深くしておかないといけないので退室までの時間が長くかかります。まぁデメリットは結構あります。
気管チューブは入っていたわけで、LMA抜去後はやはり喉頭浮腫からの咳というのはあると思うので、咳を減らすという目的が達成されない可能性もありそうです。
咳をさせないという意味では深麻酔抜管という方法もありそうです。
まだ麻酔が深い状態で抜管だけ先に行い、呼吸の補助が必要ならそのあと行うというやり方です。
しかしコロナの場合抜管後マスク換気も原則ダメなので、「咳をしない程度に麻酔は深いが、しっかり自発呼吸はでている」状態を見極めて抜管する必要があるわけですよね。なかなか難しい&時間がかかりそうです。
抜管後舌根は落ちていそうなので、下顎挙上は必要。
目が覚めてきたら口腔内分泌物が垂れ込んで結局咳をする...という展開がたまに起きそうですよね。
深麻酔抜管というのは、恥ずかしながら僕はしたことがないのですが、日常的にやっていくとやはり困った問題はおきそうですね。
自分でやってみるのはいいですが、あまり人にはやらせられなさそう。
フェンタニルの使用はどうでしょうか。
フェンタニルをたくさん使うと、咳嗽反射が抑えられますので、うまくやると気管挿管でも全然咳をさせず抜管できることも多いです。
しかし、そのためだけにフェンタニルをたくさん使うとPONV(術後嘔気嘔吐)が増えます。
口腔内からの分泌物自体にコロナウイルスはたくさん入っていますので、コロナ的にはPONV自体避けるべきものであり、それも考えものです。
こんな論文もあります。
コロナ患者の唾液は怖い。まぁ飛沫感染するんだから当たり前ですよね。
麻酔薬はどうでしょうか。
TIVA or 吸入麻酔?
プロポフォールはヨーロッパで作られていて生産が減っている、需要も多いでしょうし、いま需給が逼迫しているそうです。
なので節約するという意味で吸入麻酔でやるべきなんでしょうか。
この論文面白い。コロナ肺炎には正常肺コンプライアンスのTypeLと通常のARDSに近いTypeHがあるのでは、という考察。
— ロスジェネ勤務医 (@losgenedoctor) April 15, 2020
呼吸苦を訴えない低酸素の例はTypeLということだろう。TypeLはウイルスの局在の特徴により、HPVの阻害・VQ/mismatchが起きていることが病態を説明する、と。
https://t.co/Iwkjt1VvMY
最近言われているようですが、コロナ肺炎の「TypeL」の場合HPVの障害が低酸素血症の本態ということらしいので、もしそうならHPVを阻害しないプロポフォールがいいということになるんでしょうか。
ダブルルーメンの気管チューブを使うようなオペ(肺がんとか)はいやですよね。どうしても咳するし。
咳を防ぐ意味で、覚醒させるときにリドカインの静注とかはどうでしょう。
4%キシロカインを気管内に噴霧しておくとかはどうでしょうか。
呼吸の回路を外す時、気管チューブを鉗子で挟むと良いと紹介されていましたが、それは良さそうですね。
とにかく気管チューブから流れてくる呼気をオペ室内に流し込みたくないわけですから。
COVID患者の挿管・抜管で飛沫を浴びないようにする工夫。20mlのシリンジのプランジャーのゴムを使うやり方面白い。
— ロスジェネ勤務医 (@losgenedoctor) April 23, 2020
Safer intubation and extubation of patients with COVID-19 | SpringerLink https://t.co/SmshMrs4ok pic.twitter.com/T7Jp1bUiAI
麻酔導入は急速導入ではなく迅速導入が推奨、とされていて、僕も最近そうやっていますが、明らかに挿管困難、換気困難ぽい患者さんの場合どうしたらいいんでしょうか。
これはなかなか究極の選択を迫られそう。そういう場面に出くわさないように願うしか無いですね。
咳をさせないように、というんじゃなくてもう咳をさせる前提で麻酔をやって、飛沫から自分たちを防護するというやり方もあると思います。
「飛沫感染防止アクリルボックス」といって、挿管抜管をすっぽりその中でやる道具があるようです。これのパクリですかね。
ちょっと使ってみたい。
指導医と研修医で麻酔をやっている場合、結構麻酔器の前で近い距離にいることが多いですよね。それもちょっと考え直したほうがいいでしょうね。
いくらオペ室が垂直層流で空気が流れているとは言え、マスクをしていても50センチの距離の飛沫はちょっとまずいと思いますので。
と、いろいろと考えていて、麻酔のやり方を再考するというのもまぁ面白いと言えば面白い。
これまでよりより良い麻酔、というわけじゃないですが、時代に最適化された麻酔にチューニングするというか。
麻酔科診療ってほぼルーチンワークになってたけど、今回みたいなことが起きた時に情報収集能力、変化に対応し柔軟にやり方を改める能力、各部署とうまく連携する能力などが、実はあったのか無かったのかどうかよく分かりますね。
— ロスジェネ勤務医 (@losgenedoctor) April 24, 2020
やらんといけないので、もう楽しんでやるしか無いともいえます。
なにか良い考え方とか、やり方があったら教えて下さい。