ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

嫌われる麻酔科医

こんにちは、ロスジェネ勤務医(@losgenedoctor)です。

 

昨日からツイッターで、このツイートに関しての話題をよく見かけました。

 

 

麻酔科医なら、あまりいい気にならない内容ですが、実際に手術中にスマホばっかりみている麻酔科の医者はいます。眠っているように見える人もいる。

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実際にスマホで何をやっているのか、眠っているように見えるけどちゃんとモニターの音は聞いていますよとか、そういう反論はまぁありそうですが、勤務態度としてそれは問題なんじゃないか?という意見はあるでしょう。

ちゃんと麻酔ができていたら問題ないんだ、というわけではない面もあるということです。

 

というか手術中の部屋にずっといてスマホみたり寝ていなくても、研修医に麻酔の番をさせて別の部屋(麻酔科控室とか)でヤフーニュースをみたりダベったりしていたら同じことでしょう。

みんなちゃんと担当部屋の患者のバイタルを気にして、問題ないようにもちろんしているんでしょうが、そういう問題ではないと言われてしまえば反論はできないかもしれません。

 

これに限らず、ツイッター上で最近"外科系医師が麻酔科医を嫌う"投稿と、それに対して麻酔科医が反論するというようなやりとりが結構目立ちました。

ツイッターではこんなことは日常茶飯事で、単なる一時的な流行りのネタだと言ってしまえばそれまでなんですが、あえて深読みしてみます。

 

SNSって、「実は常々思っていたけど面と向かっては言えないこと」を吐き出すという面がありますよね。今回の麻酔科医の勤務態度なんていうのはまさにそうです。

数は力なので、外科系医師全員 vs 麻酔科医 だと分が悪そうです。

外科だってちんたら手術やって、延長してばっかりじゃないか、とか反論したって火に油を注ぐだけでしょう。

 

SNSがあるから昔は可視化されなかったこういうネタが可視化されたというところはあるんでしょうが、そもそもの麻酔科医に対するネガティブな感情自体が増大しているのではないか、とも僕は思うんですよね。

 

例えば僕が医者になった当時は、「挿管困難」という事態に今から比べるとかなりよく出くわしました。

全身麻酔をして呼吸が停止すると、挿管チューブという管を口から入れるわけですが、それが解剖学的にどうしても入りにくい患者さんがいる。酸素を体に投与し続けないと最悪患者さんは死んでしまうので、とかく急いでなんとかしないといけないし、まぁ大変なわけです。

 

何人もの麻酔科の指導医が集まって入れ替わりたちかわり、SpO2下がってヤバイ雰囲気になって、最終的にはスーパーDrが現れて口の中を血だらけにしてもなんとか挿管、なんて場面がありました。

 

外科系の先生はそういう場面を見てきたんですね。自分が参加していなくても、壮絶な場面を見て怖いよな...と思ったはずです。

麻酔科がなんとか挿管してくれたから、自分のオペが無事にやれる、というわけです。

 

そして実際の手術でも、昔は腹腔鏡手術なんてのが一般的ではなかったので、大きく切って大量出血してどうしようもなくなって、麻酔科医が集まってポンピングしてなんとか切り抜ける、なんてことが今より断然多かったわけです。

 

普段はぼーっとしてそうな麻酔科医たちが、ピンチでわらわらと集まってなんとかしてくれる、自分が当事者になった外科医は特にそういう安心感を麻酔科医に持っていたわけです。

 

それが今のオペではとても変わって、腹腔鏡で挿管したらそれでピンチな場面なんてほとんど無い(時間は長いけど)手術の割合が増えました。

挿管もはじめからマックグラスなどのビデオ喉頭鏡でやりますから、挿管困難でバタバタするなんて場面は明らかに減ったと思います。

医療の進歩、ということでとても良いことなんですが。

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昔と今と、両方を知っている身からすると、その差は歴然で、麻酔科医に対する奥底に流れるリスペクト、みたいなものは今の外科系医師が持つのは難しいんじゃないかと思ってしまいます。

昔と比べると牧歌的なオペばかりになり、普段スマホばっかりみているけど、ピンチになったら助けられるのか?といえば、やっぱり全然頼りにならなさそうな麻酔科の先生も実際に増えてきている気もします。

実はそれって、麻酔科だけの話じゃないんですが。

 

ともかくそんな退屈な麻酔業務なら、医者がやらずに看護師にやらせて、今の麻酔科医は全員転職したらいいんだ、という意見が出てくるのはある意味当然で、そういう意味で僕は麻酔なんかを専門にするのはこれからの研修医の先生にはあまりおすすめしていません

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しかし、麻酔が本当に簡単になり誰でもが片手間に安全にできるものになったのか、という意見に対しては反対です。

麻酔が分かる」ということは、「人間の生命維持がいかにしてなされているのか?」を理解することであり、日々の臨床を通じてリサーチマインドを持つ人間が向き合うべき分野であると思うからです。

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ちなみに今回のように、労働者が労働者を批判する構図、というのはまさにマルクスの資本論そのものだな、と思います。

院長ないし理事長などの「使用者」が、「労働者」である麻酔科医に個別に文句をつける、というのならわかるのですが、同じように雇用されているだけの労働者同士でやりあって、お互いの仕事が最終的にはしんどくなるように勝手にやってくれる、という構図、面白いと思いませんか?

「資本論」には、その通りに書かれています。

 

あともう一つ思ったのは、この医療業界という世界自体が、アップサイドがほぼなくなった斜陽産業であると、ほとんどの人の認識のなかに共有されたこともこういう話がでてくる一つの原因なんじゃないかと思いました。

夢のある未来を描ける業界で、どんどんと新しくてエキサイティングな事柄が目の前に現れてくる環境なら、人の粗なんてそんなに気にならないものです。

業界全体が下向きで、パイの取り合いにしか本質的な興味がみな向かわなければ、当然のように「あいつは俺より楽そうだ、許せない」なんてことに意識が向かってしまうでしょう。

 

それはそうと当たり前ですが、今麻酔で飯をくっていくつもりの人は、自分も「見られている」認識をもって仕事をしていく必要はあるでしょうね。