ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

麻酔科の保険診療上のXデイ

こんにちは、ロスジェネ勤務医(@losgenedoctor)です。

 

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厚生省も財務省も医療費を削減することに躍起です。

まぁ医療費が国の財政の首を絞めていることは事実なので、そういう方向性はもう変えられないでしょう。

まぁ今に始まったことではなくて、ここ何十年も医療費を削減することは国策みたいなもんだといえます。

そっちが進まないから少子化対策もできないんだ、と彼らは思っているのかもしれません。

 

DPCだってそうですよね。

DPCとは、包括診療報酬方式のことですが、要するに無駄な医療費を削減する目的で設置されています。

いろんなこと考えても医療機関は必死であれこれ対策を練って骨抜きにしてします。

奥深い世界です。

上の記事みたいに医療費定額払い、みたいなのも言われてますけど、そんなことになったら医療機関側の負担は増えて大変でしょうね。

 

麻酔科は診療報酬の議論からちょっと遠いところにいて、レセプトの話とか詳しい麻酔科医ってあんまりいないと思います。

 

麻酔科の診療報酬って出来高なんですよね。

全身麻酔したら最低6000点請求できて、それに麻酔薬などのコストほとんど全部別に支払われます(薬価差益もあります)。挿管チューブとかブロックの針とか、そういうコストは持ち出しですけどね、麻酔科で使う物なんて、基本安いですよ。

 

どれだけ短い手術でも6000点(6万円)請求できるので、実際行われている手術で、手術料より麻酔点数のほうが高いというオペすら結構あります。

 

薬、使い放題です。

薬価が高すぎてアメリカなんかでは全然売れていないスガマデックス(筋弛緩薬をリバースする薬)なんて日本でバカ売れです。いい薬なんですけどね。

それを良しとせずスガマデックス極力使わないという先生もいますが。

 

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これは実際に議論されているそうですが、麻酔の点数を手術の保険点数に入れてしまおう、という話があるようです。

つまりこれまで腹腔鏡胃切除64000点+それに対する麻酔8000点+麻酔薬代2000点(合計74000点=74万円)くらいだったのが、胃切除手術全部含めて70000点(70万円)にされる、というようなイメージでしょうか。

 

これ、厚生省からしたら喉から手が出るほど美味しい削減項目だと思います。

国民からは何も奪った感じにならずに診療報酬減らせるわけですし。そもそもオペをするから麻酔がいるわけなので、麻酔を手術の診療報酬に入れて何が悪いんだ、という。

 

実際にそうなったら、麻酔科にとってまさにXデイですよ。

麻酔科って、今はたくさん麻酔をかけろというプレッシャーがかかっているわけですけど、それに加えて麻酔にかかるコストを下げろという圧力がかかるんじゃないでしょうか(多分部長に)。

スガマデックス(9000円)はまずアウト。

レミフェンタニル(1070円)は有用性考えたらセーフ?

フェンタニル(約500円)は高いのでivPCAなんて消え去るかもしれません。

術後鎮痛なんていりません、というのが厚生省の見解ですから。

デスフルランなんて高級なので、むちゃくちゃ低流量を要求されるかセボフルランに変更、ひょっとしたらイソフルランくらいまで遡ってしまうかもしれません。。

 

やはりいい薬というのは技術の稚拙さをカバーしてくれるので、下手くそな麻酔科医があぶり出されそうです。

間違いなく麻酔の危険性は上がると思いますが、背に腹は代えられない、と。

 

そのへんはまぁいいとして。

 問題は「麻酔をかけることの費用対効果」 というのが今より問われるようになる、ということと、麻酔科の需要が減るかもしれないということです。

 

麻酔の診療報酬が手術医療費に含まれるということは、麻酔にかかる費用を減らせば病院が儲かるということです。

これだけの薬代と、人件費でこれだけの麻酔をしてください、という話で。

生産性が問われるというか。

麻酔にかかるお金が、「手術という製品」を生産するためのコストに過ぎないみたいになる感じでしょうか。

 

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経営者からみれば、「客を呼んでこない」麻酔科医は単なるコストでしょう。

電気代とか、外注のリネン業者みたいなものです。

これがはっきりしてしまいそうです。

 

こんだけのお金でこんだけの麻酔をしなさい、なんて要求されるのいやだなぁ、と個人的には思います。

自分で患者を連れてこられないのだから、本当にそういう話になったら言うとおりにせざるを得ないですけどね。

麻酔看護師たくさん雇ってたくさん安い麻酔やったら儲かります、ってなったらやっちゃおうかな、って思う人もでてきそう。

 

あと、これまで麻酔科管理で全麻でやっても局麻でやってもいいような手術をなんとなく全麻でやっていたのが、がんばって局麻でやるようになるかもしれません。

賢い経営者が術者に局麻でやるインセンティブをちょっと与えたら一発ですよね。

要するに麻酔科の需要が減るということです。

今みたいな麻酔科医不足においては全体で見るとむしろいいのかもしれないですけど、これできつくなる麻酔科医は実は結構いると思います。

軽い麻酔たくさん並列でかけるのが一番儲かりますからね。

 

まぁこのあたりは実際どうなるかわからないですけど、生きるか死ぬかになったら今なら考えられないことが起きると思っています。

 

そもそも、麻酔科の診療報酬が手術に含まれるというのは結構麻酔科にとってもアイデンティティにも影響する話ですし、麻酔科学会にはできるだけ抵抗してほしいですね。

いずれそうなるとしてもできるだけ先延ばしにするようにロビー活動してほしいものです。