ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

医療と安全神話 そして麻酔科医の存在価値

こんにちは、コッカーマリンです。

 

安全神話という言葉があります。

たいてい否定的なニュアンスで使われたり、「安全神話の崩壊」とかいう文脈でしかでてこないですけど。

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佐々淳行さんが危機管理の現場にいた当時の話で、原子力船「むつ」の話は初めて知りました。

客観的に事実を理解してそれを公開しようとしないお役所、付け入るスキをみつけたらすかさずカネを要求する既得権益にまみれた民衆、そのあたりは今もぜんぜん変わらないんですね。

 

100%の安全を求めることは不可能で、それを追求しようとすれば莫大な費用がかかります。どこかに線を引いて、リスクベネフィットのバランスがよいところを目指すべきなんですよね。

それが社会コストを下げて結果的に国民の利益になる、という考え方。

日本の場合そういう考え方を上も下もできていない傾向がある、という意見はよく目にします。

 

正しくリスクというものを理解している人もまた多いと思うのですが、実際はごく低い確率で自分が被害にあったら「リスクだし、しょうがないよね」とはならないのもまた事実でしょう。

 

お金で保障できるような話だったらいいんですが。

例えばあなたの恋人や子供が病院で検査結果を取り違えられてガンを見逃されていたとしましょう。

気づいたときには末期になっていたとして。

 

これは「ミスです申し訳ありません、でもとても低い確率ですが起き得るエラーなんです」

って言われて

「じゃあしょうがないか」

となる人いないでしょう。

 

命に関わる現場ですから、そのあたりの議論は大いになされるべきだし、そんな不幸な事態が起きないようにテクノロジーを使ってどんどんコストを下げていったらいいと思います。

 

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麻酔科医療も安全という話から切り離せない分野です。

麻酔科という専門分野は医療の歴史からいうと新しくて、「現代医療」とセットでしか存在し得ません。

麻酔のなかった1800年代前半までは、麻酔してやらないといけないような治療はもう死んでもともと、だったわけで医療に安全なんて発想なかったわけです。

 

麻酔だけを専門にやる医者がなんで必要か、というと、一言でいうと

「患者が苦しまずに、外科医も手術に集中できる」ような環境を作り出すために患者に投与する薬が、生命維持にとって危ない薬でもあるから

につきます。

寝る薬は死ぬ薬、みたいな。

なので危険にさらされた命を守るための医者がそばについてないと危ない、ということになったんですね。

 

まさに麻酔の黎明期なんてそうだったんだと思うんですね。

ちょっとした体の表面のデキモノを取る間、寝かせて動かなくさせるだけでもう命がけ

血圧がおかしくなる、不整脈がでる、呼吸が弱くなる。。

手術終わったらけっこうよく死んでる、みたいな。

 

様々な新しい薬、道具が開発され、だんだん麻酔学も発展して安全性が上がっていったんですが、それと同時に外科ももっと侵襲が大きいものに手を出すようになっていったので(そりゃ筋弛緩薬あったら手術もしやすくなるし、挿管して吸入麻酔薬入れつづけるから長くかかっても手術は完遂できる)、麻酔科はずっと外科医療から命を守る仕事であり続けたんですね。

外科のやることは計画されているものとはいえたいてい侵襲そのもの、ですから。

 

しかしここへきてその流れが変わったと僕は思うんです。

外科医療の侵襲が明らかに減る方向になっています。当然のように麻酔科をやっていて命を守るために走り回る、なんてことがすごく減りました。

気道確保の手段も、血管アクセスの手段も薬剤も進歩してもう麻酔がそれ自体危ない、といっていいのか、という時代になってきたんじゃないかと思うんですね。

 

みんな麻酔科の存在意義を探してブロックとかいろいろ手を出してるわけですけど、まぁ麻酔科診療のブレイクスルーには全くならないように見えます。

 

それでも麻酔科医は本来は一つの症例に一人ついていないといけない、というタテマエは生き続けています。

そこでさきほどの安全神話の記事を思い出すんですね。

「これは安全神話を利用した既得権益なんじゃないか」

 

麻酔科の専門の医者がついていたら亡くならなかったであろう、麻酔事故

これがどれだけの数まで許容されるのか。

そういう議論が本当は行われないとおかしいのですよね。

今の麻酔看護師の話はそのへんの議論をうまくスルーして麻酔科医を自然消滅させるための手段にみえちゃうんですけどね、僕には。

 

しかしです。

さっき書いたように命にかかわることですから、こういう議論をした時安全100%を目指さないといかん、という正論ぽいのがどうも力をもってしまう。

ある意味そのへんの非効率なコストの分け前をもらっているのが今の麻酔科ってことになるんじゃないでしょうか。

 

 

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反原発運動家とか、

トンデモ医療裁判の原告を支持する連中、

とかが存在する限りむしろ麻酔科医の存在価値はある程度安泰な気もします。

 

社会保障制度がいよいよやばくなってガンガン合理的に世の中動きはじめたらキツイでしょうけど、、

その時にやられる医者は多分麻酔科だけではないと思います。