ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

とある「無給医」と「三年目開業循環器内科医」/

こんにちは、ロスジェネ勤務医です。

 

とある記事を読みました。

www3.nhk.or.jp

 

16年前。

若い心臓外科医(当時大学院生)が、無給で大学病院で働かされ、疲れた状態で車に乗ってアルバイト先に向かうときに交通事故を起こし、亡くなってしまいました。

 

両親は教授から心無い言葉をかけられ、過労死であったと裁判を起こしたそうです。

主張は認められたようですが、無給であったこと自体は争点にはしなかったそうです。

しかし無給医の存在というものに対して問題提起するような内容の記事でした。

 

一方で今やや炎上しているこんな話もあります↓

 

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この人は

スーパーローテを終えただけで開業して、ネットなどでもいろいろ活動するタイプの医師

で、まぁ当然医クラからは叩かれそうですよね。実際炎上しました。

 

一番今回叩かれているのは経歴を"盛り過ぎ"ということで、確かにスーパーローテしただけなのに「救急、循環器内科、...に従事」とは実際を知っている医者達からみたらほぼ「経歴詐称」です。

なんかいろいろな科で専門の経験を積まれたんですね、と一般の人たちには見えるかもしれないし、思わせようとしているなら(多分そうだろうけど)「誇大広告」と言われてもしょうがない。

 

「無休医」は16年前の話で、「三年目開業循環器内科医」は今の話です。

なのでぜんぜん違う話だとは思いますが、どちらを見ても考えることがありました。

 

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「無給医」の先生は真面目で真摯に医療に取り組む方だったのだと思います。

16年前で大学院生ということは、僕よりは少し上の年代です。

何日もずっと病院に泊まり込みで(術後の患者さんを診ていたんでしょうか)、明けにアルバイトまでの道で居眠り運転で命を落とすなんて、本当にいたましいです。

 

と同時に自分の身に起きても不思議じゃなかったよな、と感じる医者は多いんじゃないでしょうか。

僕も一晩中大動脈解離の麻酔をやって、眠らずアルバイト先の病院に車で行って途中むちゃくちゃ眠くなって、これやばいなと思ったことがあります。

休まないとまずいと思ったけど、途中で車停めて仮眠してたらアルバイトに遅刻しますしね。

麻酔科の医者なら、アルバイト先に電話で「今日遅れるから、オペ午後から出しに変えといてもらえます?」なんてそんなに簡単に言えないの分かると思います。

 

この「無給医」の先生の話はそこまで古い時代の話ではないけど、まだそのあたりの年代の医者は封建的な医者のヒエラルキーの中で頑張るのが普通で、医局の体制を問題として声を上げるなんてことはありえない時代です。

というか問題があるとも思ってなかったと思います。

同期同士で飲みに行ったときに愚痴を言い合うくらいのことはあっただろうけど。

 

結局、院生は期間限定だしその間くらい無給で働く、というのが組織のなかでコンセンサスが得られていたわけですよね。どこの医局、どこの科でもそうでしたよ。

多分の同じときにそこで働いていた人もみんな「あの時の勤務状況はダメだった、異常だった」とは内心思っていないと思います。

院生の間はまぁそんなもんだろう

ってみんな思ってたんですよ。

人は相対的に幸せか不幸かを感じてストレスを感じる生き物ですから、全員平等にそういうひどい状況にあったらみんなそんなに不幸に感じないものです。

 

それを今の感覚で見るとおかしなことになります。

無給で働いていたから、それを放置していた体制側のせいであの先生は不幸なことになってしまったんだ、と考えてしまう。

 

実際にこの記事はそういう「感覚」で話をもっていこうとしています。

医局、とか教授、みたいな体制側っぽい感じの悪役をつくって。

親御さんにとってみたら完全に悪役なわけですし、僕が親でも訴えたかもしれない。

でもそれは主観で、感情からくる極めて個人的な話なんですよ。

 

その話でもって社会全体に問題提起をする、というのはいいと思います。

そのようにして社会は変わっていくのですから。

結果として社会が全体にとって良いものになるかどうかは分かりませんが、それは個々人が考えるようなことでもありません。

 

しかしマスコミはその被害者側の感覚に寄り添うふりをして、

「悪いやつに無給で働かされる医者がいて、それが問題である」

という自分の言いたいことに利用しているようにしか僕には見えません。

そんな何が実際に行われていたのかに言及しないような記事は、「可愛そうだ」とか「大変だったんだなあ」という感情を想起するだけで、なんの意味もないんですよ。

 

真実はこうだと思います。 

実際そんなのはみんなやっていて誰も問題とは思ってなくて、そういう仕組みで医者の世界は動いてきた。医療もそれでちょうどよいバランスで成り立っていた。

しかしどんなことでもリスクはゼロにならない。不幸な事件や問題は当然おこる。

実際にこの16年間でいろいろな事件や事案が個別の問題として起きた。

社会の変化とともに新しい考え方がもたらされ、また医者の側も組織の運営の仕方を徐々に変えて、いまはこうなっています。

 

正しく伝えるべきはこういうことだけど、まぁつまらないですよね。

で、冒頭の記事みたいな感じになってしまうということでしょうか。

 

一方「三年目開業循環器内科医」ですが、まぁなかなかふざけたことやってるなと思います。

プロフェッショナリズムの話を先日書きましたが、

医者が社会の中で基本的に尊敬される存在で、だいたい医者はちゃんとした人たちである、というコンセンサスが一般の人のなかで存在している

というのが非常に我々にとっても重要なので、そんな?と殆どの医者が思うような「医療」的なのものを保険診療で提供されてると、医者全体にとってあまりいいことではないんじゃないかと思います。

 

www.cokermarin.com

 

例えば最近「高齢者叩き」が激しいですよね。車の事故とかマナーが悪いとか。

個別にはいろいろダメな人もいただろうけど、昔は老人が特にネガティブに捉えられることは少なかったんですよ。

それが目立つダメな老人がある一定以上に達したら、高齢者全体に対するディスりにつながってしまったわけです。

今後医者が「医者叩き」の対象になる可能性は十分ありますよ。

なんといっても唯一残された「資格もってるだけで高所得が約束される」特権階級なわけですから。

 

循環器内科医と標榜して医療を行うなら、このくらいのレベルはないとダメだというレベルが当然医者のなかにはある。

ほとんどの医者にとってそれはだいたい一致していると思います

そこからみるとローテーションしただけで循環器内科を語ったらダメなのは間違いないんですよね。

 

いくら標榜するのは勝手だからといっても、その診療科の本質が何もわかってない状態で開業する人がどんどんでてくると、当然変な医療がなされる可能性が高いので、一般の人の中での医療・医者に対するこれまで培ってきた信頼が毀損する可能性があると思います。

なので医クラがこの医院をディスるのは、本能的なものなんか、当然なんですよね。

簡単にいうと、「医療を馬鹿にするな」ということでしょうか。

とにかく医療に対する不信感を増長させそうな分子は要注意してみていかないといけない。

 

ただ、こうとも思うんですよね。

医療全体のことは自分でどうのこうの考えることではない、自分が幸せになるように考えて早く商売はじめて有名になって金持ちになってやる、違法なことはしていない

という考え方があったとしても別に間違ってないとも思います。

 

医療者のプロフェッショナリズムみたいなマクロのことを個人が考えていても別に自分にいいことはないかもしれません。

自分と自分の家族が幸せになれたらそれでいいじゃないか、というのも良いといえば良い。

自分が年をとって、医院を廃業したあとに、医者に対する尊敬が世間で失われて大した収入も得られない仕事になったとしても、関係ないといえば関係ない。

 

若くて開業していろいろやるのは真面目に勤務医するのとは違う苦労もあるだろうし、単純に濡れ手に粟みたいなもんじゃないと思います。

ゆるふわ勤務で適当な麻酔のバイトして稼ぐほうが楽でしょう。

この人の動画みたりしても、すごく「生きるチカラ」は感じます。

 

僕個人としては、「無給医」の先生と「三年目開業循環器内科医」の先生、どちらも礼賛できないし、否定もできません。好きとか嫌いはあるけど。

単にそんな人はそりゃいるよな...というだけです。

 

今の若い医者の頭の中では、医療の暗い先行きというのが見えているからか、医療全体に貢献するような陰なる努力とかではなく、目に見えて自分にプラスになるようなことを優先するところがあります。

それがダメだとかいうことはなくて、社会や医療全体が変化した単なる結果なんですよ。

みんな生き物ですから、本能的に周囲の状況に適応しようとするのです。

 

 

ロスジェネあたりの医者はその「適応」が遅い人が多いですよね。

自分が医者になったときにあった、あの封建的な医局の感覚が残っているからだと思います。

時代っていうのは坂道みたいに変化するんじゃなくて、階段状というかときには崖みたいに変化するもんなんですよね。

「三年目開業循環器内科医」をみて、ディスるだけの感覚しか持てなかったら、かなりやばいかもしれません。