ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

ボスに左右される麻酔科

こんにちは、ロスジェネ勤務医(@losgenedoctor)です。

 

麻酔科をやっていて、この診療科は実は特に「部長」(科長)の力が重要な科なのではないか?と思う時があります。

 

医者なら分かると思うんですけど、なんとなく麻酔科って一人親方というか、それぞれ干渉しない個人主義のイメージが強いんですが、実はセクションの長の力でこれほど働きやすさが変わる科もないんじゃないかと思うんですよね。

 

麻酔科って、中央セクションで、なおかつ似たようなことをやっている科のない、特殊な科です。

例えば整形外科と耳鼻科。ぜんぜん違うようですが、病気や怪我で困った患者さんがやってきて、話を聞いて検査をして治療をして、といういう意味では同じようなことをやっているとも言えます。

 

麻酔科はなんとも他と違う。

完全に「臨床の科」なんだけど、主治医はしないし、すべての外科系の科と濃密に接します。

時々喧嘩したりしますからね。良くないんですけど。

そういう診療科って、あんまりないですよ。普通は医者同士、慇懃に対応し合います。

裏では色々言い合ってるんでしょうけど。

麻酔科は面と向かって他科に意見を申し上げる機会が多いです。他の科がやることが自分たちの仕事にもろに影響してくるから、当たり前のようにそうなります。

 

外科系の他の科からみると、何事もなく進んでいっていると、麻酔科医ってなにやってるのか分からないと思うんですよね。

すごく簡単そうに見えるかもしれないし、麻酔科の医者が何を考えているのかも分からない。

 

麻酔科がいなくなったりして、アルバイトばかり頼まないといけなくなるような経験をすると、麻酔科がいないといかに困るのかよく分かるんですが、ちゃんと普通に運営されている麻酔科だと、空気みたいな存在になって、だんだん蔑ろ(ないがしろ)にされてしまうという。

これは麻酔科を長く、いろんなところでやっている人なら、みな納得するんじゃないかと思います。

 

他科は顧客が患者(素人)ですが、麻酔科は外科医が顧客です。いや、麻酔科医も患者が顧客だよ、という意見はあるんですが、それはおいておいて、麻酔科を評価するのはやはり外科医でしょう。

我々も外科医がこっちをどう思っていのか、気になります。

 

外科医にすれば、手術室に患者を連れてくるのも自分、患者(顧客)から依頼されて手術を行うのも自分です。

病院を一つのビジネスとしてみれば、治療というサービスが客に与えられる価値であり、それを司っている自分が一番偉いメインプレーヤーだと思うのは当たり前です。

なので彼らは多少の無理をしながらでも頑張って仕事をする傾向があります。

 

外科医にもいろいろいますが、彼らは麻酔科医にはない思いを持ってオペにやってきています。

ずっと患者さんを外来でみていて、その家族もよく一緒に来ていて、なんとか彼らを安心させてあげたい、病気から開放してあげたいと思っていたりするのです。

そういう思いとともにオペに臨む。

 

それを麻酔科としてしっかり理解することは必要なわけですが、それはそうとして、外科医からすると、単なるインフラに過ぎない(ように見える)麻酔科がゴチャゴチャ言ってきたら腹が立つわけです。

ずっと長い間みてきて、ようやくオペまでやってこれたのに、麻酔科から「予定時間通り終われ」だのなんなの言われたらムカつくと思います。

彼らの方だって言いたい。「お前達は俺らが依頼した麻酔をやっているだけだろう」、と。

 

仕事として与えられたことをやっていれば、そこにどんな「思い」が込められていようといまいと本来は全く関係ないはずなのですが、どうもそのあたりのテンションの違いが彼らには理解しにくいのだな、と思うことはあります。

 

麻酔科医の思いというのは、どちらかというと、絶対に安全に麻酔を行う、という点にあって、さっきまで元気に話していた若者が、自分の入れた薬のせいで30分後には死んでしまっているかも知れないというプレッシャーがやはり大きいです。それを毎日毎日やる。

これは職業として麻酔科医を選んでやっていないとわからない感覚でしょう。

つまりともかく外科医と手術というものに対する感覚において、お互いに言語化しにくい大きな違いがあるのです。

 

麻酔科医にすると、顧客である外科医と、根本的に感覚に違いがあることに、常にストレスがあります。

明文化された「オペ室のルール」みたいなのを掲げて、いろいろ言ったって、心から納得してもらえなければとてもやりにくいんですよね。

 

そういうのって、麻酔科医の凄まじいストレスになります。

結構自分たちでも気付かない。麻酔診療そのものよりストレスになっていることも多いです。

客がずっと自分に対してネガティブな感情を持ったまま、何時間も接客する店員、極端にいうとですが、そんなの考えただけで辛そうでしょう?

 

仕事は基本他科の医者相手なので、そういうわりと「孤独」な状況になりがちなのです。

そもそもオペ室の中に外科医は数人いますが、麻酔科医は一人ですしね。

 

それはもう、職業上しょうがない。なので、心に「拠り所」となるボスが必要なわけです。

絶対的な存在で、病院や他科の部長たちと対等に伍することのできるボスがいれば、安心して働けます。そういうものです。

実際にそういう人が部長だと、麻酔科に無理な仕事量が回ってくることも少ないし、そういう職場だと人が集まってきて、もっと職場環境がよくなる、ということが起きます。

 

ただ、実際にはそういう人は残念ながらほとんどいません。

人柄はいいけど気が弱いとか、強気だけど外科系と喧嘩ばかりしてむしろ下は働きにくくなるとか、いろいろです。

 

「孤独な麻酔科医の心の支えとなり、病院の中で偉くなってオペ室の運営に無理がないように立ち回り、臨床面で外科医全員から一目置かれ、大学医局と良い関係を保って人材の確保に努め、学会発表や論文を書いてそこにいる麻酔科医がアカデミックな面でも恥ずかしくないようにする」

そんな人材が、それぞれの医局にうまいことジッツの病院の数だけでてくるわけがありません。

 

麻酔科に限らず、他の科においても、「良い部長」というのは重要ですが、麻酔科の場合は職業の特殊な性質上、ボスの重要性が特に高いのではないかという気がしています。

結構あれこれ話を聞いていると、どこの医局でも麻酔科がガタガタになっているのは、そういう根本的な理由があるんじゃなか思ってしまいます。