ロスジェネ勤務医の資産形成ブログ

ロスジェネ世代麻酔科医師のコッカーマリンです。資産形成や日々のことについて感じたことを書き綴ります。

三重大病院の話を聞いて思ったこと

こんにちは、コッカーマリン(@losgenedoctor)です。

 

三重大病院の医師の不正請求が話題になっています。

www.asahi.com

 

一般紙の記事では詳細がよく分かりませんが、現時点でほぼはっきりしているのはオノアクト(ランジオロール)という薬を、三重大麻酔科に所属する医師が通常とは違う使い方をして、さらにカルテの書き換え不正請求と考えられる行為を行っていたようだ、ということです。

それで出た利益を企業にキックバック、という噂もありますが、それはまぁあくまで噂だと思います。

 

しかし本当に麻酔科、こういう報道されるレベルの醜聞が多い気がします。

 

 最近だけでいっても旭川医大の話、昭和大学の論文不正というのもありました。

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三重大学の麻酔科といえば、伝え聞くレベルですが、10年前くらいに教授一人を除いて全員退職の話もありましたし、2年前くらいにパワハラ裁判というのもありました。

いろいろ大変な場所のようです。

www.nikkei.com

 

ここからは想像もかなり含みます。

オノアクトというのは、麻酔中や手術中になんらかの原因で頻脈になったとき、それを抑えるための薬(βブロッカー)です。

βブロッカーといってもいろいろありますが、頻脈の原因のβ1受容体のみを抑えるわけではなく、β2受容体まである程度抑えてしまうので、それが副作用として喘息の原因になることがあります。β2受容体には気管支拡張作用があるからです。

なのでβ1選択性の高いβブロッカーが待ち望まれていたのですが、僕が医者になって数年後からこのオノアクトが使われるようになりました。

 

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バリバリの喘息患者にでも使えるβブロッカーで、原因はともかくとりあえず今頻脈を抑えたい、という場合にやはり助けられることのあるいい薬です。

なのでいつも使えるようにしてある病院が多いと思いますが、薬価が高くてそうそう気軽に使える感じの薬ではないんですよね。

実は僕も使うとしても、年に数回レベルだと思います。

 

そうなんですよね。常識のある医者なら、費用対効果というのを考えて薬を使うのが当たり前なわけです。開業医じゃないわけですから、高い薬を使っても自分の収入が増えるわけでもないし。

 

なんでこんなことをやったんだろう、と不思議に思うわけです。

小野薬品なんてコンプライアンスの厳しい会社ですから、賄賂みたいな感じのお金が医局に回っていた、なんてちょっと考えにくいと個人的には思います。

 

 

いろんな文脈を無理にでも解釈すれば、別に頻脈がなくても手術中にずっと持続でβブロッカーを流しておきましょう、いいことがあるかもしれませんよ、という理屈は一応通るわけです。

そういうこともあり、やる人(+やらされる人)も内心悪いこと(正しくないこと)をしているという感覚が麻痺しやすかったと思われます。

 

人間の精神というのは多くの場合、正しくないことをしている感覚にされされ続けることに耐えられないので、自分で認知を歪めるようにできています。

つまりこの場合でいうと「オノアクトを全例に入れている=実は自分は患者にいいことをしているんだ」と思うようになるということですね。

 

逆に突き詰めて、なんでオノアクトを使ったらダメなのか?となると添付文書に不整脈に対して使うようにと書いてあるじゃないか、となるんですが添付文書通りの使い方をしない薬なんてたくさんあるので本当はちょっと違う。

それこそ常識、ということになってしまいます。

 

今回の話もオノアクトを通常と違う使い方でたくさん使ったことが問題というより、しっかりと患者に説明していたわけではないこと、カルテに使ったことをちゃんと書いていなかったことなどが問題となっているわけです。

 

ちなみに手術中に使った薬が病名さえつければ全部基本的に保険請求できるということは、この業界では割と有名な話です。

今回のオノアクトも、病名に「洞性不整脈」とでも書けば、1症例1,2本くらいならまずハネられることはありません。保険審査する人は確かめるために麻酔記録なんてまず見ません。

 

一方入院などの多くはDPCという仕組みで、病名に対して全部ひっくるめた請求しかできませんので、入院中に薬を出せば出すほど病院は損をする仕組みです。

さっきも言いましたが、麻酔で使った薬はだいたいなんでも別会計で請求できてしまいます。

 

これは基本的な考え方として、手術中に使う薬は緊急性が高いので、制限なく使えるようにしていないといけないということがあるんだと思います。

そして「医師も常識を持っているので、きっと無茶な使い方はしないだろう」という信用があるのではないでしょうか。

 

しかし今回のような話が出てくると、麻酔で使う薬も全部くるめにした請求しかできない、というような話のとっかかりにならないとも限りません。

長じて、麻酔報酬も手術報酬に入れてしまおう、ということにまでなる可能性も出てきます。

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 というかずっとこれは密かに議論されている話みたいで、手術の中に麻酔も入れてしまおう、という意見の人にとっては今回の話なんて「それみたことか」という感じなのではないでしょうか。

長い目で見ると、麻酔科医の需要というものにまで影響してくる話かもしれません。

 

三重大の話で自分には関係ないと思っている麻酔科医の先生も多いと思いますが、僕は以上のように感じました。