こんにちは、コッカーマリン(@losgenedoctor)です。
これあちこちのオペ室で麻酔科医として働いた経験からですが、以下のことがいえると思います。
1つのセクションに与えられている業務量が決まっている以上、提供できる労働力で対応するしか無い。
— ロスジェネ勤務医 (@losgenedoctor) July 8, 2020
労働力=質×頭数×効率と考える。
業務量>労働力⇛質↓・頭数→・効率↑⇛トラブル↑
業務量<労働力⇛質→・頭数↓・効率↓⇛業務量↑
となる気がする。
業務量というのはこの場合つまりオペです。
一日でこれだけの手術の麻酔をやれ、と与えられるわけです。
それをそこに居る麻酔科医やら研修医やらで分担してやるわけですが、実は業務量と提供できる労働力の間にミスマッチが起きています。
まぁピッタリ合うわけないので、当たり前ですよね。
適正な「提供できる労働力」というのも実は曖昧です。
しかしべらぼうに業務量>労働力であったり、業務量<労働力であったりする状態が長く続くと、いろんな変化が気付かないうちに進行します。
"労働力"というものを分解してみると、
労働力=質×頭数×効率
となります。
ちなみに具体的に麻酔の質が悪いというと、導入だけ指導医が付き添ってあとは血圧がこうなったらこうやれみたいな指示だけ出して、研修医を一人その部屋に何時間も放置するみたいなやつです。
鎮痛もロピオン+ivPCAフェンタニルみたいなのを一応つける程度のもので、一応問題なくいったほうに見えるだけのもの。
研修医も教えられないので麻酔が面白いと思わないし、外科医も麻酔ってそんな程度でできるもんなんだなと思うし、患者も痛がりますし術後吐きます。術前診察も術後診察も適当なので印象にも残らない。
頭数は分かると思いますが、効率というのは運営のやり方です。例えば実は暇にしている奴をなるべくなくして、意味のない業務をなるべくなくすなど。あちこちの現場で一生懸命行われていることだと思います。
業務量>労働力⇛質↓・頭数→・効率↑⇛トラブル↑
業務量があまりに過多の状態が続くと、まず先程書いた麻酔の質が下がります。とりあえず取り繕ったような、さばくだけの麻酔だらけになる。
世間で言われているように、仕事が多すぎて人が減る、というのは意外と起きない印象があります。やはりみんな自分が辞めたらこの現場困るだろうな、という気持ちがあるのか意外と忙しい時期は人が減らない。
効率はこんな業界でも少しずつですが、やはり上がります。
例えば、薬の管理を薬剤師に入ってもらってやるようにしたり、麻酔のやり方をある程度マニュアル化して麻酔科医の出入り(交代)がスムーズにいくようにしたり、そんなことです。
しかし実際の経験からいうと、業務量>労働力の状態が続くといくら対応しようとしてもどうしてもトラブルが増えるという結果になることが多いようです。
公表されるような医療事故とまではいかない細かいトラブルは、現場ではたくさん起きています。
大きな病院の経験が豊かな麻酔科医達は、大抵そのトラブルの火消しが業務の多くを占めるようになってしまいます。
業務量<労働力⇛質→・頭数↓・効率↓⇛業務量↑
逆に労働力が過多になってきた時どうなるかですが、麻酔の質って意外と変わらないんですよね。
じゃあいつ麻酔の質が向上するんだ、という話になってきますが、個人的にはこういう文脈では語れないという気がしています。つまり新しい薬が出てきた時、とか新しい麻酔のやりかた(神経ブロックなど)が出てきた時に麻酔の質が向上する、みたいなことでしょうか。
ちゃんと研修医に指導する時間ができて、しっかりと教える人も多少はでてくるとは思うんですが。
そしてなぜか頭数が減るんですよね。何人も麻酔科医がいると、辞めたいと思っている人が絶対何人か潜在的にいるんですよね。そういう人が、人員が増えてくるとそれをきっかけに辞めてしまいます。だからどの現場もいつも頭数不足感に悩まされることになります。
労働力が多いと仕事の効率は下がります。人は怠惰な生き物なので、一人2列みていた状態から一人1列みる状態になって余裕でできても、何かその分工夫してより効率の良い仕事のやり方を考え出すなんてことはしないわけです。余裕がある内によい方法を考えておく、なんてことができたらいいんでしょうけど、僕の経験からいうと医療の現場ってそんなに意識の高い場所じゃないですからね。
業務量<労働力の状態がある程度続くと、業務量↑という結果になります。病院の手術室って常にオペ増やせという圧力かかってますしね。オペが増える。
しかしそのあとさっき述べたような理由で頭数が減り労働力が減少しても、一度増えたオペはなかなか減らせない。どこの施設でもあるような話なんじゃないでしょうか。
なので麻酔科・手術室側としてはいくら人手に余裕ができても業務を増やすことに抵抗しがちになるわけですね。
こう考えると「業務量>労働力」と「業務量<労働力」の状態って、原理的に行ったり来たりする性質があるのかもな、と思えてきます。
このように業務量と労働力のミスマッチの話題を言語化してみると、いろいろと見えてくることがあります。
今自分の施設はそのゆらぎの中のどのあたりに位置しているんだろうか、など考えてみても良いかも知れません。
「ずっと業務量>>労働力だよ!」という声も聞こえてきそうですけど。