こんにちは、コッカーマリンです。
気道確保デバイスに「マックグラス」という製品があります。
ビデオ喉頭鏡というものの中の一種です。
ビデオ喉頭鏡は従来のマッキントッシュ型喉頭鏡と違い、直接喉頭を展開して見なくてもカメラ越しに声門を見て挿管可能なので、挿管困難患者への挿管、または未熟な手技者による挿管に適していて、ここ10年くらいで一気に広がったデバイスです。
麻酔科やっていると挿管困難というのはとても重要な「考慮すべき事態」で、昔からいろいろと挿管困難対策が考えられてきたんですが、このビデオ喉頭鏡はブレイクスルーだったと思います。
ビデオ喉頭鏡にもいろいろあって、初めはエアウェイスコープが紹介されましたが今はほとんどマックグラスがシェアを広げた感じですね。
厳密に言うとエアウェイスコープとマックグラスはかなり違うデバイスなのですが、割愛します。
挿管困難用で使われてきたマックグラスも、今やはじめから全部の症例に使われることが増えていると思われます。
僕も結構はじめから派かもしれません。
マッキントッシュをあえて使い続ける意味はそんなになさそうです。
マックグラスを眺めていると、いろいろ気づきがあります。
やはり市場を席巻する理由、というものがあるわけですよね。
まず、製品のデザインがいい。
Macっぽいデザインで作った(だからMcGrathという商品名らしいです)というだけあって、なんかおしゃれです。医療機器でも、オシャレなものというのはつい手にとってしまうものなのかもしれません。
取り回しがいいです、マックグラス。
デザインとも通じるんですが、録画機能とか、画面部分の解像度とかを省いたからなのでしょうか、小さくて軽くて、持ち運びしやすい。使っているときも場所とらないんですよね。
つい使いたくなってしまう感じ。これが普及には重要なんでしょうね。
こんなんとかとは全然違いますよね。
あと、マックグラスって安いんですよね。
そんな大した仕掛けなさそうだし、あれで一個100万、とか言ったらさすがに誰も買ってくれない。
マックグラス売ってる会社、そんなに儲かってないと思いますよ。
医療の世界でほんとに役に立つモノは安い、そんなジンクスあります。
麻酔科にとっては「挿管困難」ってすごくイヤなものなんでけど、でもそれが自分たちのプロフェッショナルな部分を担保する重要な部分だったわけです。
全館コールが鳴って、「挿管できません!」みたいな騒然とした雰囲気につつまれるオペ室で、最後はラスボスみたいなおっさんが出てきて血液だらけの口から挿管を決める、みんなほっと胸をなでおろす、、みたいなのを昔の外科医はみんな見てきたんですよね。
そんなの日常的にみてたら麻酔科のやってることの専門性を認めざるを得ないし、あんな状況自分に起こって欲しくないと思うはずです。
麻酔は麻酔科の医者がやるもんだ(たまにすごくやばい状況になるから)、って説明しなくてもそういう空気があったんですね。
すごく極端に言うとマックグラスの登場でそういう場面が一気に減り、麻酔科の専門性が一気に毀損したと思います。
いや、もちろん安全になったのでそれでいいんですけどね。
麻酔科をめぐる昨今の問題にマックグラスの影響はすごく大きいと思いますね。
挿管困難が昔みたいに今でも起きていたら、麻酔看護師の議論もこんなに進んでいなかったでしょう。
もしくはフリーでわけのわからん病院に麻酔しに行くのに、マックグラスがあるかないかって無茶苦茶大きいでしょ?
マックグラスができたから、というよりまさに機器の進化によって技術がコモディティ化した、ということなんでしょうけどね。
これは麻酔科だけの話ではないと思います。
AIで病理診断だ、画像診断だ、医者の仕事がなくなる、とか言われていますが同じ文脈の話だと思います。
まぁマックグラスはAIほど高度な話でもないんですけど。
技術の進歩、とくに医療以外の技術の進歩というのは医療者が自分で思っている「自分の専門性」 なんて全然考慮せずにどんどんぶっ壊していきます。
その流れに抗うことってできません。
しかし自分の持っている何かを自分の本質的な値打ちだと思い、自分が依って立つのはまずいということは理解しておくべきでしょう。
とにかくまだまだ先働かなければならない今ロスジェネくらいの年代の医者は、変に自分が医者で賢くて偉いんだ、みたいな考えは捨てたほうがいいでしょうね。
今の専門以外の勉強とかとやっておくなど、結構大事だと思っています。